研究課題/領域番号 |
23380029
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
水久保 隆之 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業総合研究センター病害虫研究領域, 上席研究員 (30370513)
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研究分担者 |
瀬尾 茂美 独立行政法人農業生物資源研究所, 植物科学研究領域植物・微生物間相互作用研究ユニット, 主任研究員 (80414910)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 植物病理学 / ネコブセンチュウ / 線虫学 / 誘導抵抗性 |
研究概要 |
本課題では、我々が見出したジャスモン酸処理によるセンチュウ寄生の抑制現象に基づく仮説「ジャスモン酸が植物代謝産物等の産生等を経てセンチュウの寄生を抑える」を検証するべく、ジャスモン酸誘導性のセンチュウ侵入抑制物質の単離同定及び作用機作の解明を主な目的として研究を進めている。これまでに、ジャスモン酸処理トマト根由来の中性及び酸性画分中にネコブセンチュウ侵入抑制物質が存在することを見出し、中性画分から活性物質としてテルペノイドのスクラレオールを同定した。また、スクラレオールによる侵入抑制にはエチレンシグナル伝達が関与することを明らかにした。そこで24年度は、エチレン以外の植物側因子の特定を試みるとともに、酸性画分中に見出した侵入抑制物質の精製を進めた。前者については、スクラレオールで処理したトマト及びシロイヌナズナの根において病原体等の感染に対する防御で重要な役割を演じるリグニンが蓄積することを見出した。また、リグニン生合成関連の遺伝子はスクラレオール処理によって誘導されたことから、リグニン蓄積の誘導は少なくとも転写レベルで制御されていることが示唆された。以上の結果から、スクラレオールによるセンチュ侵入抑制にはエチレンのみならずリグニンも関与することが明らかとなった。後者の侵入抑制物質の精製については、高速液体クロマトグラフによる分画に進み、残り数段階の分画で単離できるところまで到達した。なお、活性を示した画分の予備的MS分析の結果から追っている活性物質は極性の高い低分子物質であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに、ジャスモン酸を処理したトマトの根の中性画分から単離同定したスクラレオールによる線虫侵入抑制にはエチレンシグナル伝達系が関与していること、スクラレオールはリグニンの蓄積を誘導することを見出した。また、中性画分とは別の酸性画分中に見出した線虫侵入抑制活性については、精製の最終段階まで到達した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はスクラレオールによる線虫侵入抑制におけるエチレンシグナル伝達系とリグニンの相互関係を明らかにするとともに、酸性画分中に見出した線虫侵入抑制活性物質の最終的な精製・単離並びに同定を試みることを主な目的に以下を実施する。 (1)侵入抑制物質の構造解析:酸性画分中に見出した線虫侵入抑制活性物質については、現在高速液体クロマトグラフによる単離が、残り数段階の分画にまで到達した。そこで、精製をさらに加速化させ、単離できた物質はNMR やMS等を用いてその構造を解析する。なお、これまでのクロマトグラフ上の挙動や予備的MS分析の結果から追っている活性物質は極性の高い低分子物質であることが判明している。 (2)侵入抑制物質が線虫にもたらす影響の評価:スクラレオールについては前年度までに、殺虫効果および線虫の病原性に影響を及ぼさないことを見出した。そこで本年度は、上記(1)で精製を試みている線虫侵入抑制活性物質について、単離できた場合、線虫に対する殺虫効果や病原性に与える影響の有無等を評価する。 (3)侵入抑制物質の作用機作の解析:スクラレオールによる線虫侵入抑制の作用機作を明らかにするために、エチレンシグナル伝達系のシロイヌナズナ欠損変異体を用いて、本物質処理後のリグニン含量やリグニン生合成系遺伝子の発現変動を調べる。本物質によるリグニン蓄積の誘導を細胞レベルで解明すべく、処理根のリグニン蓄積の組織化学的解析を行う。また、リグニン外因子の関与の有無を明らかにすべく、同処理植物における各種防御遺伝子の発現変動を調べる。上記(1)の物質が単離できた場合、処理したシロイヌナズナ根における各種防御遺伝子の発現変動を定量PCR等で調べる。
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