研究課題/領域番号 |
23380031
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堀 雅敏 東北大学, 大学院・農学研究科, 准教授 (70372307)
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キーワード | 害虫 / 斑点米カメムシ / イネ / 水田 / 寄主選択 / 摂食刺激物質 / 誘引物質 / 吸汁行動 |
研究概要 |
1(1)水田香気物質の時期的変化の解析:キューリーポイントインジェクター(ポータブルパイロライザー)を用いてTenaxに捕集した香気物質を熱脱着によりGC-MSに注入する分析法とSPMEを用いたこれまでの分析法とで開花期イネ香気成分のデータを比較した。水田上部の香気を開放系で捕集するとVOCの影響が強く、イネの香気を捕集できないことが明らかになった。ガスサンプリングバックで水田のイネ穂を袋掛けして、中のヘッドスペース成分を捕集し分析したところ、切断した穂をサンプル瓶に入れSPMEで捕集するよりも効率的にイネ穂香気が捕集されることが明らかになった。1(2)水田香気物質に対するカスミカメムシ類の電気整理応答解析:GC-EADの据え付け調整を行ったが、明確な触角電位応答は得られなかった。今後、触角のマウント法を検討し直す必要がある。2 吸汁行動のパターン解析:人工照明下でアカヒゲホソミドリカスミカメ(アカヒゲ)とアカスジカスミカメ(アカスジ)の行動を録画し比較したところ、前者は明期のほうが行動が活発で、後者は暗期のほうが活発な傾向が見られた。アカヒゲについて雌雄別、交尾経験の有無別にビデオによる行動解析と吸汁行動測定装置による吸汁行動解析を行った。本種は暗期よりも明期のほうが活発に吸汁を行う傾向がみられたが、その日周性は性別よりも交尾経験の有無に影響を受けることが明らかになった。移動行動も明期のほうが活発であったが、吸汁行動と異なりその日周性は交尾経験の有無ではなく性別により大きな影響を受けることが明らかになった。アカヒゲは明期のほうが活動がやや活発であるものの暗期にも活動を行うことから、昼夜行性種であると考えられる。また、吸汁行動測定装置で得られた吸汁波形により探針、吸汁開始、連続吸汁、吸汁終了の各行動が解析できることも明らかになり、今後、吸汁行動を制御する物質の活性を調べていく上で本装置の有効性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災の影響および補助金の一部交付の遅れにより、主要な機器の導入が遅れたため、実験環境が整ったのが秋以降となってしまった。そのため、イネの開花期が過ぎてしまい、本年度はイネ開花穂を用いた研究の実施ができなくなってしまった。また、震災により昆虫を飼育するチャンバーが破損し、供試虫数の十分な確保ができる累代飼育環境が整わなかったため、バイオアッセイに遅れが生じた。吸汁行動測定装置やビデオによる吸汁行動の解析方法や水田での香気捕集方法および捕集香気の分析方法はほぼ確立することはできたが、イネ香気に対する電気生理応答に関して遅れが生じたため、達成度としては「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
水田からの放出香気物質と嗅覚応答の解明では、水田でイネ開花穂が放出している物質の同定とそれらに対する電気生理応答解析を中心に行う。イネ開花穂香気物質は野外開放系で捕集するとVOCの影響で分析が困難になることから、水田で穂を袋掛けし、そのヘッドスペースを捕集して分析する。また、植物香気物質に対するカスミカメの電気生理応答は実験系の確立が難しいため、比較的扱いやすい虫で実験系を確立した後に本実験に着手する。吸汁行動解析では、吸汁行動の日周性についてさらに調査反復を増やすとともに、人工飼料に対する吸汁行動を測定装置およびビデオで記録・解析することにより、連続吸汁に至る一連の行動パターンの詳細を吸汁波形から特定できるようにする。吸汁行動を制御しているイネ成分の解明では、乳熟~糊熟期のイネ籾の各種溶媒抽出物を処理した人工飼料に対する吸汁行動を測定装置で記録し、吸汁波形から各抽出物が刺激する吸汁行動段階を明らかにする。
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