研究課題/領域番号 |
23380033
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
池田 素子 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (20262892)
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キーワード | 抗ウイルス応答 / 昆虫ウイルス / 昆虫培養細胞 / リボソームRNA分解 / エンドリボクヌレアーゼ / 全タンパク質合成停止 |
研究概要 |
本課題は,アメリカシロヒトリ核多角体病ウイルス(NPV)感染によって誘導されるカイコBM-N細胞のrRNAの分解機構を解析することによって,NPV感染細胞が発動する全タンパク質合成停止の分子機構を明らかにすることを目的としている.動物細胞において,小胞体ストレスに応答して誘導される翻訳抑制に,28S rRNAの切断が関与していることが報告されている.rRNAの切断には,IRE1βと呼ばれるI型膜貫通キナーゼ/リボヌクレアーゼである小胞体タンパク質が機能している.そこで,本研究ではIRE1βのカイコ相同体cDNAを探索し,その機能解析を行った.まず,ショウジョウバエで同定されているIRE1相同体のアミノ酸配列を用いて,カイコゲノムのデータベースを検索した結果,IRE1相同体をコードする遺伝子(BmIRE1)の存在が見出された.そこで,BmIRE1 cDNAをRACE法によりクローニングした.得られたcDNAは1020アミノ酸残基からなるタンパク質をコードし,N末端側から膜貫通ドメイン,セリン/スレオニンキナーゼドメイン,RNaseドメインを持つことがわかった.BmIRE1 cDNAを発現ベクターに挿入し,BM-N細胞で一過性発現を行い,rRNAの分解を調査した.その結果,BmIRE1 の発現はウェスタンブロット法により確認できたが,rRNAの分解は認められなかった.さらに,BmIRE1の発現をRNAi法によりノックダウンさせたBM-N細胞を用いて,NPV感染により誘導されるrRNAの分解が抑制されるかどうかを調査した.その結果,BmIRE1のノックダウンによるrRNA分解への影響はほとんど認められなかった.したがって,今回の結果から,BmIRE1がNPV感染BM-N細胞に誘導されるrRNAの分解に関与していることを示すことはできなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本課題は,アメリカシロヒトリNPV感染によって誘導されるカイコBM-N細胞のrRNAの分解機構を解析することによって,NPV感染細胞が発動する全タンパク質合成停止の分子機構を明らかにすることを目的としている.平成23年度は,NPV感染BM-N細胞から,rRNAの分解に関わるエンドリボヌクレアーゼの探索と同定を中心に研究を計画した.まず,候補遺伝子(BmIRE1)のcDNAのクローニングに成功した.つぎに,得られたcDNA を用いて機能解析に着手した.具体的にはcDNAを発現ベクターに挿入し,細胞への一過性発現を行うことによってrRNAが分解されるかどうかを調査した.しかし,今回用いた実験方法ではrRNA分解は認められなかった.さらに,BmIRE1 dsRNAによるRNAi法でノックダウンを行うことにより,rRNA分解が抑制されるかどうかを調査したが,rRNA分解の抑制は認められなかった.したがって,今回クローニングした遺伝子が,rRNA分解に関与しているかどうかは現在のところ不明であり,目的としている遺伝子の同定には至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,rRNA分解に関与している可能性のあるBmIRE1の機能解析を進める.当初の計画に沿って,rRNAを基質として用い,BmIRE1のエンドリボクヌレアーゼ活性を調査する.BmIRE1 cDNAを大腸菌発現ベクターに挿入して,菌体内あるいはインビトロ翻訳系を用いてタンパク質を合成し,これを酵素液として活性を検出する.この方法で活性を検出することができれば,研究計画通り,つぎのステップとしてBmIRE1の活性化機構解析に着手する. 並行して,全タンパク質合成停止を誘導するウイルス因子の同定とrRNA分解が誘導されるまでのシグナル伝達や,細胞側のウイルス認識因子の探索と同定に着手する.以上は,当初の研究計画通りである.
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