研究課題/領域番号 |
23380033
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
池田 素子 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (20262892)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 抗ウイルス応答 / 昆虫ウイルス / 核多角体病ウイルス / 昆虫培養細胞 / リボソームRNA分解 / エンドリボクヌレアーゼ / 全タンパク質合成停止 |
研究概要 |
本課題は,アメリカシロヒトリ核多角体病ウイルス(NPV)感染によって誘導されるカイコBM-N細胞のrRNAの分解機構を解析することによって,NPV感染細胞が発動する全タンパク質合成停止の分子機構を明らかにすることを目的としている.本年度は,初年度に同定したI型膜貫通キナーゼ/リボヌクレアーゼのカイコ相同遺伝子であるBmIRE1の機能解析を中心に行った.動物細胞のIRE1αおよびショウジョウバエのIRE1は,転写因子であるXBP1のmRNAのスプライシングを行い,スプライシングを受けたXBP1 mRNAは翻訳され,小胞体シャペロン群の転写を誘導する.そこで,カイコのXBP1相同遺伝子(BmXBP1)を同定し,BmIRE1によるBmXBP1 mRNAのスプライシング活性を調査した.まず,BmIRE1遺伝子を一過性発現させたBM-N細胞において,BmXBP1 mRNAのスプライシングは検出されなかった.しかし,BM-N細胞をツニカマイシン処理することによって小胞体ストレスを誘導した場合にも,BmXBP1 mRNAのスプライシングは検出されなかった.したがって,カイコではIRE1によるXBP1 mRNAのスプライシングは保存されていない可能性がある.そこで,XBP1 mRNAのスプライシングが確認されているショウジョウバエ由来のS2細胞を用いて,BmIRE1遺伝子の一過性発現を行った.その結果,コントロールに用いたEGFP発現プラスミドを導入した細胞においてもショウジョウバエXBP1 mRNAのスプライシングが観察され,一過性発現させたBmIRE1のスプライシング活性を検出することができなかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題は,アメリカシロヒトリNPV感染によって誘導されるカイコBM-N細胞のrRNAの分解機構を解析することによって,NPV感染細胞が発動する全タンパク質合成停止の分子機構を明らかにすることを目的としている.平成24年度は,① これまでにクローニングしたエンドリボクヌレアーゼの候補遺伝子,BmIRE1の機能解析と,② rRNA分解を誘導するウイルス因子の同定,③ 細胞側のウイルス認識因子の探索と同定,rRNA 分解までのシグナル伝達を計画した.① については,BmIRE1にエンドリボヌクレアーゼ活性が保存されているかどうかを種々の方法を用いて検討したが,活性を検出するには至らなかった.rRNA の分解に関わるエンドリボヌクレアーゼの同定は,当初の計画よりも大幅に遅れている.一方,② のNPVのrRNA分解の誘導に関わる因子に関しては,p143遺伝子に着目して研究を進めた.アメリカシロヒトリNPVに加えて,AcMNPV,クワゴマダラヒトリMNPV,ハスモンヨトウMNPVのP143によりrRNA分解が誘導されること,一方,カイコNPVのP143は誘導しないことを明らかにした.さらに,P143一過性発現細胞を用いて,rRNAの分解とともに誘導されるアポトーシスはrRNAの分解に直接関与しないこと,カイコNPVのP143はrRNA分解を誘導しないが,2つのアミノ酸置換によりアポトーシスとrRNAの分解を誘導することを明らかにした.以上のように,ウイルス因子の同定が完了したことから,ひき続き,③ のウイルス因子を認識する細胞側の因子の探索を進めている.このように,②と③の研究計画については,遅れぎみではあるが,研究内容は計画通り進んでいる.
|
今後の研究の推進方策 |
当初は,rRNA分解に関わるエンドリボヌクレアーゼを同定し,その活性化機構を解析することによってシグナル伝達経路を絞り込む計画であったが,エンドリボクヌレアーゼの同定が予想外に難航しているため,シグナルの上流からの解析を中心に進める.これまでに,NPVのP143がrRNA分解の誘導因子として同定できたことから,P143を手がかりとしてP143と相互作用する細胞因子の同定,シグナル伝達経路の解析を行い,rRNA分解までの経路を埋めていく.また,全タンパク質合成停止をレスキューする因子をカイコNPVから探索する実験にも着手する.以上の計画内容は,当初の研究計画通りである.一方,BmIRE1の機能解析については,BmIRE1のインヒビターであることが予想されるRLIのカイコ相同遺伝子(BmRLI)の同定と機能解析を中心に進める計画である.さらに,動物細胞のIRE1と同様にXBP1 mRNAの切断活性が報告されているショウジョウバエのIRE1を用いて,rRNA分解に関与しているかどうかを検討する.
|