研究課題/領域番号 |
23380034
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小林 迪弘 名古屋大学, 生命農学研究科, 名誉教授 (60111837)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アポトーシス / イニシエーターカスパーゼ / Dronc相同体 / バキュロウイルス / 核多角体病ウイルス / カイコ / マイマイガ / 一過性発現 |
研究概要 |
アポトーシスは昆虫の生体防御システムを構成する重要な要素の1つである。これまでの研究により、各種核多角体病ウイルス(NPV)に感染した様々な昆虫細胞がアポトーシスを誘導することが示されている。われわれは、さきに、マイマイガ由来のLd652Y細胞が、種々のNPVの感染により、容易にアポトーシスを誘導すること、および、カイコ由来のBM-N細胞は、NPV感染により、比較的アポトーシスを誘導しにくいことを明らかにした。また、カイコのinitiator caspaseの1つであるDronc相同体(Bm-Dronc)の遺伝子を単離し、Bm-Dronc がNPV感染細胞におけるアポトーシス誘導に重要な役割を演じていることも明らかにした。 今回は、Ld652Y細胞とBM-N細胞のアポトーシス誘導能の差異が、マイマイガのDronc相同体(Ld-Dronc)とBm-Droncとの機能差異に起因するか否かを検討する目的で、Ld-Droncの遺伝子を単離し、Ld-DroncとBm-Droncの機能比較を行った。Ld-Droncのアミノ酸配列はBm-Droncのそれと54%の同一性をもち、タンパク質の全構造や機能ドメイン、基質特異性などは両者の間で大きな差異は認められなかった。一方、一過性発現実験により、Ld-DroncはBm-Droncよりも素早く活性型にプロセッシングされることが明らかになった。このプロセッシングの差異は、p35遺伝子欠損AcMNPV(vAcΔp35)感染細胞においても認められ、vAcΔp35感染Ld652Y細胞のLd-Droncは、vAcΔp35感染BM-N細胞のBm-Droncよりも、素早くプロセッシングした。これらの結果から、Ld652Y細胞とBM-N細胞のアポトーシス誘導能の差異発現の原因の1つは、Ld-DroncとBm-Droncとの間の機能差異にあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この2年間の研究により、アポトーシスの誘導と実行に与るいくつかの細胞のinitiator caspaseとeffector caspase、ならびにアポトーシスの阻害に与る細胞とバキュロウイルスのIAP (inhibitor of apoptosis) の単離と機能解析を推進してきた。また、われわれの研究室で発見したバキュロウイルスの新規アポトーシス阻害因子Apsupの機能解析も進んでいる。さらに、バキュロウイルス感染細胞における、アポトーシスの誘導と阻害の分子機構も次第に明らかになりつつある。 研究は当初の計画に沿っておおむね順調に進展しており、特記すべき問題点は見当たらない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度であるので、当初計画した研究を収束させることを念頭に置きつつ、以下の計画で行う。 ① 新規アポトーシス阻害因子Apsupの機能解析:昨年度から、Apsupタンパク質の発現様相や、機能的役割などの解析に着手し、様々な成果を得たが、残されている課題は少なくない。本年度は、Apsupの一過性発現実験や、apsup遺伝子を欠損した組換えLdMNPVによる感染実験などにより、Apsupの機能と役割をさらに詳細に検討する。また、Apsupのドメイン解析を行い、Apsupの作用機構についても検討を加える。 ②カスパーゼ遺伝子の単離と機能解析:われわれは、すでにBM-N細胞とLd652Y細胞のイニシエーター・カスパーゼ遺伝子(bm-droncとld-dronc)とエフェクター・カスパーゼ遺伝子(bm-caspase-1とld-caspase-1)のcDNAの単離に成功している。昨年度は、bm-droncとld-droncの間でプロセッシングと活性化のkineticsが大きく異なることを見出し、これにより、BM-N細胞とLd652Y細胞のアポトーシス誘導能に差異が生ずることを示唆した。本年度は、bm-droncとld-droncの機能差異についてさらに詳細に検討するとともに、bm-caspase-1とld-caspase-1の機能差異と2種の細胞のアポトーシス誘導能の差異との関係についても検討を進める。 ③アポトーシス経路の探索:これまでは、主にカスパーゼ・カスケードを中心としたアポトーシス制御機構について研究を進め、いくつかの重要な知見を得た。本年度は、カスパーゼ・カスケードの上流におけるアポトーシス制御機構について検討を進める。カイコのp53遺伝子cDNAの単離は完了しているので、P53の機能解析を進めるとともに、sir2やreaperなどの単離と機能解析を行う。
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