研究課題/領域番号 |
23380035
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西田 律夫 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30135545)
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研究分担者 |
小野 肇 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70452282)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 送粉シンドローム / ミバエラン / フェニルプロパノイド / 共進化 / 化学受容 / 誘引物質 / 花香成分 / シノモン |
研究概要 |
東南アジア・オセアニア熱帯圏において,果実類の大害虫 Bactrocera 属ミバエ類を送粉者として利用する一連のBulbophyllum 属ミバエランに含まれる特異的誘引花香成分について新たな化合物を探索した.ウリミバエ B. cucurbitae や B. albistrigata の雄を特異的に誘引する Bu. stockeri と Bu. tollenoniferum の花香をより raspberry ketone, anisylacetone に加え syringylacetone (SA) を同定した.これらフェニルブタノイド類縁化合物を有機合成し,オーストラリア熱帯圏のBactrocera 属ミバエに対する誘引活性を調べた結果,誘引物質未知の B. cucumis に対する誘引活性を示す化合物を見い出すことができた.また,複数のミバエ種において,雄が花香摂食後,直腸フェロモン腺に選択濃縮蓄積する化合物群の同定と定量を実施した.また,ミバエ類の雄が求愛行動の際に煙霧状に放出するフェロモンの空気捕集を行い,揮発性成分の同定と雌に対する応答試験を実施した.ウリミバエの触角で発現する嗅覚受容体候補遺伝子のdRNAを作成し,RNAi 実験条件を検討した結果,qPCRによるノックダウン効果を確認することができた.ウマノスズクサ花香の主成分である 2,8-dimethyl-1,7-dioxaspiro[5,5]undecane が N-(3-methylbutyl)acetamide との相乗作用により数種のクロコバエ類を強力に誘引する効果を検証することができた.また,それらの立体構造と活性の関係についても知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
送粉昆虫と緊密な双利関係にあるミバエ-ミバエランの共生に介在する化学因子を明らかにし,相互の適応的意義について考察を進める一方,分子生物学的手法を用いて,ミバエランの系統解析とミバエ触角感覚子に発現する受容体候補タンパク質究明への足がかりを構築することができた.また,有機合成によりウマノスズクサ花香成分のクロコバエ類に対する誘引活性を物質レベルで実証することができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年は最終年度であるため,以下の項目について実験研究を推進し,結果をとりまとめる計画である.(1)Bulbophyllum属ミバエラン各種の花香に含まれる未知のミバエ誘引物質を同定し,送粉者Bactrocera属ミバエ類の種相と体系的に関連付ける.これまで解析を進めてきたミバエラン種と,花香成分を異にするそれらの地域個体群合計20種以上の遺伝子の系統解析により,相互の近縁関係を解析する.とくにフェニルプロパノイドとフェニルブタノイドの発現様式に注目して,その生化学的背景を探る.(2)Bactrocera属3種ミバエ類(ミカンコミバエ,ナスミバエ,ウリミバエ)において,雄触角の嗅覚受容器に特異的に発現していると考えられるレセプター遺伝子を究明するため,候補遺伝子の RNAi などを駆使し,機能解析を進める.花香成分を特異的に受容するレセプタータンパク質の構造を明らかにする.(3)上記の知見より誘引物質未知の害虫ミバエに対する新規誘引物質を開発する.(4)クロコバエ類を誘引するウマノスズクサ花の特異的香気成分の送粉シンドロームにおける役割について解析する.真に送粉者として機能しているハエ種の特定と,その受粉メカニズムを明らかにする.(5)以上の研究を総合的に考察し,花と送粉昆虫の間で繰り広げられる協調的共進化過程のプロセスを解析する.とくに花香成分リガンドに特化した嗅覚レセプター遺伝子が,ミバエ/クロコバエ類の種分化過程とどのように変遷してきたのか,その進化の道筋を遺伝子にたどることが最終年度の最大の目標である.
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