研究概要 |
サバクトビバッタの成虫が混み合い刺激を感受しそれを子世代に伝達する現象において、どのような化学物質が関与しているのかを明らかにするために、アッセイ系の改善を追究した。これまでの結果をおおむね支持してはいるものの、小さな卵を産む孤独相メスに6日間(感受期間は4日)複数のオスを加え混み合いを与えたところ、反応率が低いうえ、生産された卵サイズが以前(Maeno, 2011; Maeno & Tanaka, 2012)の結果と比べ、大きくならなかった。使用した系統の形質転換は他の生物でも示唆されていることから、エチオピア系統とイギリスの研究所で使用され後にベルギーの研究所で継代されてきたアルビノ系統を使って検証したが、ニジェール系統と同様、混み合いを経験させても群生相に相当する卵は得られなかった。協力者であり、感受期の存在と混み合いに対する基礎的データをとった前野氏に、再現実験の協力を依頼したが、実現しなかった。一つの仮説は、4日という短期間の混み合いで群生相化するのではなく、性成熟に伴って卵巣の可塑性が変化し、成虫ステージ初期に群生相に相当する大型卵生産能力が決定される可能性であり、現在検証中である。これらの結果は、早い時期に論文として発表する予定である。 群生相化の混み合い刺激に対する反応は幼虫期にも見られ、3齢孤独相幼虫に群生相幼虫を加えて、様々な期間処理したところ、反応が鈍い亜終齢と比べ、わずか1日ですべての個体に黒化が起こることが分かった。また、群生相の特徴である集合性の誘導も、2日間の混み合いで誘導できることがわかった。この現象は再現性があり、今後、混み合い刺激要因の特定と黒化誘導に関与するコラゾニン遺伝子の特定に有効であると考えられ、今後の研究に反映させたい。 モーリタニアでの野外実験は、室内実験の結果がおもわしくなかったこと、治安や予算的な事情から断念した。
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