研究課題
イネ(コシヒカリ)幼植物の短期間リン(P)欠乏処理で、根でのリン脂質の減少を認めた。この植物は、アルミニウム(A1)ストレス条件下では、P十分条件のものと比較して、根端でのA1集積が減少し、根形態異常も抑制された。以上により、根端細胞膜のリン脂質を減らすことがA1ストレス耐性の獲得に寄与することが示唆された。なお、P欠乏処理による根ステロールの変動は認められなかった。また、HMG遺伝子の過剰発現で、A1耐性が向上することも確認しつつある。イネ42品種をP施肥と無施肥の黒ボク土で20日間生育させ、地上部生育、P濃度を比較した結果、34品種で低P区での生育が劣った。高P区の地上部乾物重に対する低P区のそれの相対値を低リン耐性値と定義すると、低P耐性は、あきたこまちの98%から、寝太郎の33%と品種間差が大きく異なり、60%以上が12品種、40%以下が3品種であった。また、P欠乏のシロイヌナズナ根で発現量が多い脂質代謝関連の幾つかの候補遺伝子をノックアウトした系統を、P欠乏条件で栽培すると、根の伸長や地上部重が低下することを見いだした。さらに、シロイヌナズナ由来栩丑遺伝子を、過剰発現プロモーター制御下に連結したコンストラクトを作成し、これを保有するアグロバクテリウムをイネ(コシヒカリ)由来カルスに感染させて、PAH過剰発現イネを作出中であり、間もなく種子を収穫する。以上の結果、根のステロールを増大させたり、リン脂質を低下させることによって、A1耐性と低リン耐性が向上すること、これらに関わる遺伝子の過剰発現が両耐性の向上に有用である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
根のステロールを増大させるよう改変したHMG過剰発現イネのA1耐性については、現在もスクリーニングを継続中である。低P処理によって誘導されるA1耐性の向上、その膜脂質との関連性に関しても順調に進んでおり、糖脂質に関しては、現在測定法をほぼ確立した。低P耐性の異なるイネ品種のスクリーニングを終了し、脂質関連遺伝子が低リン耐性に重要であることも明らかにできた。リン脂質を低下させるよう改変したPAH過剰発現イネに関しては、間もなく種子を獲得できる。また、連携研究者との共同体制も順調である。以上により、研究の目的はほぼ順調に進展していると判断された。
今年度は、P欠乏条件下でのA1耐性の向上に関わる要因を詳細に解析するとともに、リン脂質を低下させるように遺伝子を組換えたイネ種子を用いて、Al耐性と低リン耐性の向上の関するスクリーニングを実施するとともに、その機構も解析する。低リン耐性の異なるイネ品種を用いたリンリサイクリング能・P獲得能の詳細を明らかにするとともに、PAH過剰発現イネを用いた同上の解析を計画通りに実施する。
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