研究課題/領域番号 |
23380053
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
藤田 泰太郎 福山大学, 生命工学部, 教授 (40115506)
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研究分担者 |
広岡 和丈 福山大学, 生命工学部, 准教授 (20389068)
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キーワード | 応用微生物 / 緊縮応答 / 発現制御 / ゲノム / 枯草菌 / 胞子形成 / 緊縮転写制御 / プリン合成 |
研究概要 |
枯草菌は自然界で一般的に栄養的に極めて劣悪な状況におかれる。そのため、枯草菌にとって栄養劣悪時に作動する緊縮制御が常態となり、またカタボライト抑制も解除していると類推できる。この緊縮制御下の代謝ネットワークの動態を把握するため、まず、脂肪酸分解系のFadRレギュロンのカタボライト抑制機構を解明した。このFadRレギュロンは長鎖脂肪酸分解系の遺伝子群から構成されている。このレギュロンのうち3オペロン(lcfA-fadRB-etfBA、lcfB、fadNAE)が、CcpAに依存するカタボライト抑制を受けている事を明らかにした。次に枯草菌の緊縮応答による胞子形成の開始機構の解明を行った。緊縮応答によるGTP合成系の阻害により、GTPの減少とATPの増加が引き起こされる。このヌクレオチドの変動を感知する転写開始点のプリン塩基種に依存した緊縮転写制御系が作動し、緊縮遺伝子の転写開始点にAが有りGが無ければ転写の活性化、Aが無くGが有れば不活性化する。GMP合成阻害剤のデコイニンの添加は、緊縮制御と同様にGTPの減少とATPの増加を引き起こし、胞子形成を誘導する。デコイニンで引き起こされる緊縮制御でのDNAマイクロアレイ解析で胞子形成の引き金となるリン酸リレー系に関与するkinAとkinBの発現の上昇が観察された。そこでkinAとkinBのLacZレポーター解析を行い、転写開始点A(+1)をGに変換するとこの緊縮制御による誘導が起こらなくなることを確認した。さらに、kinAとkinBのゲノム上の転写開始点のAをGに変換した菌株を作成し、転写開始点のAが胞子形成の開始に重要であることを明らかにした。以上の結果より、胞子形成の引き金は.生体内のATP濃度の上昇と転写開始点のAに依存したkinnAとkinBの転写の活性化であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
枯草菌の胞子形成は分子レベルの解析が最も進んだ細胞分化系として周知されている。しかしながら、胞子形成の開始に関わる代謝制御の研究は遅々として進まなかった。この度、緊縮制御ネットワークの大きな位置を占める胞子形成開始の代謝制御機構を解明できたことは国際的に大きな意義をもつ。ただ、この緊縮制御の全体像を捉えるための体系的な緊縮制御遺伝子の特定とその転写開始点の塩基種の同定、並びにの緊縮遺伝子の転写開始反応の解析研究は、計画通りには進展せず、24年度以降の継続研究課題とした。
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今後の研究の推進方策 |
枯草菌において緊縮制御により炭素代謝が抑えられ、アミノ酸合成系が高まる。有用物質の効率よい産生のためにはこの炭素代謝の負の制御を解除すことが肝要であり、そのため負の緊縮制御下にあるグルコース取り込み系(pts)やアセチルCoAの合成に与るピルビン酸脱水素遺伝子(pdhの転写の開始点のG塩基をAに換える。作成した菌株を用いて、イソロイシンやプロテアーゼなどの分解酵素の産生効率が上昇するか検証する。さらに、前年度からの懸案である、体系的な緊縮制御遺伝子の特定と転写開始点の塩基種の同定、並びにの緊縮遺伝子の転写開始反応の解析研究を遂行する。
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