研究課題
計画1に記載の、ePet1-Cre TGマウス導入と、flox型OXTR KOマウスとの掛け合わせは順調に行われ、これにより5-HTニューロンでのみOXTR遺伝子欠損し、OXTに対する反応性を失ったマウスが作製された。その社会的記憶行動に関して限定された回数ではあるが解析を行った。その観察実験の結果は、縫線核5-HTニューロンに発現するOXTRは社会行動に関与する可能性が薄いことを示唆した。社会行動制御能を持つOXTRの局在神経核に関しての数ある可能性の一つとして、研究費申請時には詳細を記述しなかったが、”扁桃体内側核に発現するOXTRがマウスの社会行動(社会的記憶)において果たす役割”について検討した。即ちfx型OXTR遺伝子欠損(Oxtr(fx/fx))マウスの扁桃体内側核にAAV-Creベクターを感染させることで、本領域に発現するOXTRが社会的記憶に果たす役割について解析する為の準備を行った。今年度はAAV-Creの開発を行い、Rosa26-STOP-βGalマウスの特定の脳神経核にこれを注入感染させ、AAV-Creベクターが設計通りに機能することを確認した。また、オキシトシン受容体欠損マウスの特定の神経核にレスキュー用のオキシトシン受容体遺伝子を送り込むため、AAV-Oxtr-IRES-Venusベクターの開発と、特定の神経核へ打ち込んだ場合の感染性、オキシトシン受容体遺伝子の発現の可否など作動確認を行った。計画2の、舌味蕾I型グリア様細胞で発現するOXTRの生理的機能解明について、舌味蕾特異的Oxtr KOマウスがOXT添加餌、非添加餌に対し示す社会行動の差異について、明確な差異は見いだせていないものの、引き続き検討することとした。
2: おおむね順調に進展している
導入したePet1-Cre TGマウスをflox型OXTR KOマウスと組み合わせて作製したマウスで行った、5-HTニューロン特異的OXTR遺伝子欠損マウスによる社会的記憶行動解析の結果は、予想に反して縫線核5-HTニューロンに発現するOXTRは社会行動に関与する可能性が薄いことを新たに明らかにすることが出来た。一方、オキシトシンがオキシトシン受容体を介して縫線核セロトニンニューロンの重要な生理機能を制御している可能性は以前として高く、寧ろ体温制御機能やオキシトシンの不安低下作用、食欲抑制などそれ以外のオキシトシンの生理作用への関与について、調べていくことの必要性に至ったことは大きな成果と考えている。”扁桃体内側核に発現するOXTRがマウスの社会行動(社会的記憶)において果たす役割”については、解析の準備として、新たにAAV-Creベクターの開発と作動確認を完了しすることに成功し、繁殖数を確保することで、fx型OXTR遺伝子欠損(Oxtr(fx/fx))マウスを用いた領域特異的オキシトシン受容体の欠損による、領域特異的オキシトシン受容体の機能解析が展開できることとなった。計画2の、舌味蕾I型グリア様細胞で発現するOXTRの生理的機能解明について、舌味蕾特異的Oxtr KOマウスがOXT添加餌、非添加餌に対し示す社会行動の差異については、明確な差異は見いだせておらず、味蕾に発現するオキシトシン受容体の味覚以外への機能を推定する事も必要と思われた。
flox型OXTR KOマウス(Oxtr(fx/fx)マウス)とePet-Creマウスを交配し作成した、縫線核のセロトニンニューロンで特異的にOxtrが欠損したマウスの生理行動異常解析については、その母性行動、体温制御機能、不安行動等の生理行動異常等、他のオキシトシン・受容体依存性と考える生理機能についても範囲を広げ、特にオキシトシン受容体に依る体温制御、不安軽減作用について、コンディショナル型縫線核5-HTニューロン特異的OXTR KOマウスを利用して詳しい解析を引き続き続ける計画である。新たに開発したAAV-Oxtr-IRES-Venusベクターは大変有効なツールであり、Oxtr KOマウスの母性行動関連領域の、視索前野、外側中隔に注入し、母性行動への影響を解析する。同様に、Oxtr(fx/fx)マウスの母性行動関連領域にAAV-Creベクターをインジェクションし、これらの領域に特異的なOXTR遺伝子欠損マウスを作成、その母性行動が低下しないか否かを解析する。舌味蕾細胞タイプ1型グリアに発現するOXTRの機能解析に関して、特異的Oxtr KOマウスがOXT添加餌と非添加餌に対し示す社会行動については、更に行動観察を続行する。OXTR発現性の味蕾細胞の電気生理学的解析についても、外周部のケラチン5/14発現性の上皮細胞を、K5-CreとRosa26-STOP-TdTomato等の導入で、OXTR依存性のVenus発現細胞から識別する、などの対策による応答記録の改善を試みる。
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