研究課題
植物にとって重要な環境因子である光は、単なる明暗の識別だけでなく、光質や季節の変化を感知するために利用されている。フィトクロム相互作用タンパク質VOZの遺伝子破壊系統の解析から、VOZが光質依存的な花成制御のみならず、環境応答に広く関わることを見出した。VOZは転写因子として機能が期待されているが、タンパク質の局在観察では主として細胞質に局在していた。変異体の相補を指標に、核と細胞質のどちらの局在が機能に重要であるかを評価したところ、核の機能が重要であることが示された。つまり、安定に細胞質に局在するVOZが環境に応じて核移行するモデルが考えられた。次に抗体を利用してVOZのタンパク質としての安定性と挙動を調べた。VOZは細胞質では安定であるが、リン酸化によって制御されている可能性が示された。遠赤色光光照射により不安定化すること、この安定性にはフィトクロムが関与すること、phyA分子とphyB分子が共に関与することがわかった。VOZタンパク質の分解は、プロテアソームの阻害剤により抑制されたことから、積極的なタンパク質分解が制御に機能していることが示唆された。共免疫沈降およびBiFC法を利用してフィトクロムとVOZの相互作用部位を検出した。植物体内での相互作用が検出されるとともに、相互作用が細胞質で見られることがわかった。これらの成果は、The Plant Cell誌に論文として発表した。次に、生理学的および分子遺伝学的にVOZを介する生長相制御機構を解析した。遺伝学的解析から低温や個体齢による花成制御に関与するFLCを介する経路との関わりが示された。また、これまでの光質に加えて、光質と温度のクロストーク機構が注目し研究を進めた。花成および低温馴化表現型にVOZが影響を与える可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画では、1)VOZの作用機構の解明、2)VOZを介する生長相制御機構の解明、3) 光と温度のクロストーク機構の解明、4)光受容システムを介する複合的環境応答機構の低温ストレス耐性への応用を計画した。研究期間の前半で計画した項目は、基本的に完了した。具体的には、項目1)では、VOZの細胞内局在の生化学的解析、VOZの細胞内局在の可視化による細胞学的検出、VOZ細胞内局在の機能的検証、VOZの時空間的発現の機能的検証を実施した。項目2)では、自律経路のFLC mRNAの発現解析、その遺伝学的検証を行った。もう一つの経路であるCOについてはmRNAレベルでの解析は完了したが、当初計画したタンパク質の検出は技術的に困難であった。項目3)では、a) 光質と低温適応の生理的解析とVOZの遺伝解析を行った。その結果、低温感受性と概日リズムに関しては、低温誘導遺伝子の鍵となる転写因子CBFの発現が報告されているようなデータが得られず、明瞭な結果が得られていない。今後、実験条件の見直しを行う予定である。
VOZの作用機構の解明について研究を展開する予定である。ChIP-SeqアッセイによってVOZの標的配列を解析する。これまでにGFP融合タンパク質が機能的である結果が得られたので、実績のあるGFP抗体を用いてChIP-アレイ解析またはChIP-Seq解析を行うことで、DNA上のVOZ認識部位を明らかにする。合わせて、遺伝子発現をマイクロアレイにより網羅的に検出し、両者を比較することでVOZ転写制御の全体像をつかむ。光質から低温へのクロストークについては、これまで明瞭な結果が得られていない。クロストークは環境に大きく影響を受けると考えられるため、低温馴化や凍結条件を詳細に検討し、クロストークンポイントの同定と評価系の確立を目指す。上記の網羅的遺伝子発現解析やこれまでの解析も合わせて、最終年度として遺伝的階層性を検証する。
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Th Plant Cell
巻: 24 ページ: 3248-3263
doi: 10.1105/tpc.112.101915