研究課題
必須微量元素であるセレンは、同族の硫黄、酸素と生体内で厳密に区別され、特定のタンパク質(セレンタンパク質)の特定の位置にセレノシステイン残基の形で機能発現に必須の要素として取り込まれ、種々の重要な生理的役割を果たしている。セレンの量を遥かに上回る硫黄豊富な生体内環境下で、様々な因子が構造と機能に基づいた緻密な選択的反応を遂行することにより、セレンが特異的に転移・代謝され、セレンタンパク質の生合成を恙なく進行させていると考えられる。本研究では、セレンの活性化と転移を触媒する酵素の解析を行うとともに、セレン転移に関与する因子の探索を行うことを目的とした。Pseudomonas sp. F2a 株のセレノリン酸合成酵素を大腸菌にクローニングし、His-tag 融合タンパク質として精製した。本酵素の ATP に対する Km、Vmax 値はそれぞれ0.85 mM、135 nmol·min-1·mg-1 であった。次に、E. coli selD 欠損株にF2a株のselD遺伝子を導入し、E. coli の selD 欠損が相補されるかベンジルビオロゲンを用いて調べた。その結果、F2a株のselD遺伝子導入株においてベンジルビオロゲンは還元され、本酵素は E. coli の selD 欠損を相補することが示された。セレンオキシアニオンの還元に関わる遺伝子を同定するため、トランスポゾン導入によるセレンオキシアニオン還元能欠損株の作製を行い、セレンオキシアニオン還元能が低下した変異株の取得に成功した。また、セレン酸および亜セレン酸の還元に関わる可能性のある遺伝子を特定した。亜セレン酸の還元に関わる酵素について生化学的解析を行い、2菌株について亜セレン酸還元酵素の特性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
無機セレン依存的にセレノシステインを生成する活性の反応条件について検討し、亜セレン酸の還元に関わる遺伝子の変異株取得に成功した。また、セレノリン酸合成酵素を含む超複合体についても解析の準備が整ったことから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
今後、申請時の計画に沿った形で、亜セレン酸、セレン酸、セレノシステインの3つの化学形態からのセレニド供給系について個別に詳細な解析を進める方策である。特に、新奇な亜セレン酸還元経路に関わる遺伝子および酵素の同定を急ぎ、セレノリン酸シンテターゼおよびセレノシステインシンターゼの精密反応機構解析にも重きをおく方針である。
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