研究課題
本研究においては、高温ストレスに対するバラの生理的適応機構をバラ花弁における季節・栽培環境変化に応答した主要香気成分2-フェニルエタノール(2PE)の生合成経路シフト、新生合成経路に焦点を絞り以下の各課題について検討した。1)安定同位体標識前駆体・代謝物消長解析に基づく生合成経路シフトと新生合成経路の解明。2)生合成酵素反応・遺伝子発現の解析に基づく、生合成経路のシフトと新生合成経路の詳細の解明。3)質量顕微鏡による生合成中間体の花弁表層細胞における移動・推移の可視化の達成。1)バラRosa ‘Yves Piaget’の切り花に温度変化処理後、重水素標識L-フェニルアラニン(L-Phe)から生成する2PEにおけるアイソトポローグの比率を基に生合成経路を推定した。高温(30℃)処理によりL-Phenylalanineからアミノ基転位反応、脱炭酸反応によって2PEが生成する経路が優位となり、低温(4℃)処理により、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素反応優位となることを実証した(Plant J. 審査中、学会発表済、論文投稿準備)。2)プロトプラストでの実験結果に基づいた解析に加え、切り花で、各酵素遺伝子の転写レベルを検討している。高温期には2PE 生合成に関わる酵素遺伝子の転写レベルは著しく低下した。酵素遺伝子以外の遺伝子解析が必要である。3)質量顕微鏡解析のネックとなっていたマトリックスの粒子径が大きすぎる点を、マトリックス蒸気の塗布法により克服できる目処が立った(質量顕微鏡操作指導者、浜松医大・瀬藤教授)。マトリックス塗布条件の検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
課題1)において、生合成変化をもたらす環境要因が気温であることをほぼ解明した。しかし温度の上昇が制御する分子メカニズムは不明のままである。課題2)では切り花での遺伝子発現、転写を検討したが温度変化との整合性は認められず、標的遺伝子が異なるとの感触を得た。課題3)では分析機器、操作上の課題を克服できる目処が立った。以上の通り、当初の予定通り順調に推移している。
課題1)、課題2)において、温度変化と生合成経路の変化との関係は、生合成酵素遺伝子の発現転写レベルの相違からだけで説明できないとの示唆を得た。今後は、芳香族香気成分生合成経路上流の転写調節因子について検討を進める。
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