呼吸鎖酵素NADH-キノン酸化還元酵素(複合体-I)のプロトン輸送メカニズムを理解する上で、親水性ドメインでの酸化還元反応にともなって、膜ドメインでどのような構造変化が生じるのかを明らかにすることは極めて重要である。膜ドメインにおける構造変化を検出する手法として1分子測定は有力な手法である。 複合体-Iの鍵サブユニットであるND1に特異的に作用するアセトゲニンにタグ分子(末端アセチレン)を結合させたリガンドをデザイン合成し、トシルケミストリーの原理で、位置特異的に末端アセチレンを導入することを試みた。末端アセチレンの導入位置を調べるために、クリックケミストリーでTAMRA蛍光タグを導入した。 解析の結果、末端アセチレンは両ドメインの境界に位置する49 kDaサブユニットに導入されることがわかった。詳細なペプチド化学解析を行ったところ、同サブユニットのアスパラギン酸160に特異的に置換していることが判明した。本結果は、トシルケミストリーの原理によって、複合体-Iに対して位置特異的に化学修飾できることを初めて示したものである。
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