本研究は特異な糖鎖構造、LacdiNAc構造を持つ糖タンパク質glycodelinの化学合成を達成し、その機能に迫る目的で行った。本年度は、以下の点について研究を行った。 (1)単糖を持つGlycodelinの脱保護:昨年得たGlycodelinの全長配列はまだ保護基を持っているため、最終脱保護条件に処して完全に遊離のポリペプチド鎖を得、すべてのシステイン残基が遊離のチオール基を持つものに誘導した。 (2)単糖を持つglycodelinのフォールディング:Glycodelinは、2量体として機能していることから、通常の無限希釈法によってジスルフィド結合の形成と、フォールディングを行うことには困難が予想された。そこで、(1)で得たポリペプチド鎖を、適度なタンパク質濃度でタンパク質間の相互作用を保ち、有機溶媒を添加して多量体化を防ぎつつ、フォールディングを行った。その結果、二量体になると分子量が40 kDa近くになるため、質量分析での解析は困難であった。しかし、ゲル濾過クロマトグラフィーでの分子量測定を行うと、40 kDa程度分子量であると計算されたため、フォールディングに成功したことが明らかとなった。 (3) Endo-M変異体(Glycosynthase)による糖鎖の導入:合成、フォールディングされた単糖を持つGlycodelinに対して、一昨年度合成した糖鎖オキサゾリンを導入し、LacdiNAcを持つglycodelinへの変換を試みた。その結果、HPLC上わずかながら糖鎖転移が進行したピークが観測され、目的とするLacdiNAcをもつglycodelinの合成に成功した。
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