研究課題
これまで我々はジペプチドTyr-Leu(YL)が医薬品に匹敵する低用量で抗不安作用を示すことを見出している(FEBS Lett. 2010)。しかしながら、YL配列を有する食品タンパク質を摂取した際に、消化管内でYLおよびその類縁体が生成するか否か不明であった。そこで本研究では、YL配列を複数有する主要な牛乳タンパク質αs1カゼインに注目し、消化管を想定した酵素条件で処理した場合にYL類縁体が生成するか否かを検討した。まず、αsカゼインをペプシン消化後に、さらにパンクレアチンで消化し、得られた消化物中に含まれるYL類縁体をLC-MS/MSシステムを用いて定量した。その結果、YLGがより効率的に(YLの5~10倍)生成することを見出した。さらに、YLGを含むモデルペプチドを化学合成し、YLG生成に寄与している消化管酵素を検討したところ、ペプシン、トリプシン、カルボキシペプチダーゼが関与していることが判明した。さらに、YLGを高含有するαsカゼインのペプシン+パンクレアチン消化物が抗不安作用を示すことをマウス高架式十字迷路試験で明らかにした。さらに、YLGを牛乳由来の新しい抗不安ペプチドとして報告した(FASEB Journal, in press)。また、YLの構造-活性相関研究をきっかけに、LFが睡眠誘発作用を示すことを見出し、昨年、報告した。さらに本年度は、LF投与後に脳内のどのような部位が活性化されるのかをc-Fosの免疫染色により検討した。その結果、LF投与により睡眠中枢として知られる腹外側視索前野(VLPO)ではc-Fos発現は変化しなかったが、扁桃体および海馬でその発現上昇が認められた。この発現パターンは睡眠導入剤として用いられるdiazepamのものと一致していた。
2: おおむね順調に進展している
これまで、Tyr-Leu(YL)など、ジペプチドのなかに強力な抗不安作用を示すものが存在することを見出していたが、食品タンパク質の酵素消化により強力な抗不安ペプチドが実際に生成するかは不明であった。主要な牛乳タンパク質αs1カゼインを消化管における酵素的条件で処理したときに、YL類縁体が生成し、かつ、抗不安作用を示すことを初めて発見したことは、抗不安ペプチドが生理的条件で生成する可能性を強く示唆しており、生理的意義を明らかにすることができたといえる。一方、睡眠誘発活性を示すジペプチドの作用機構の一端を明らかにし、基礎科学の進展に寄与した。研究は順調に進展している。
食品タンパク質から派生する外因性神経調節ペプチドについて、その作用機構を解明し、神経経路を解析する予定。既に、抗不安作用や抗うつ作用など情動調節作用を有する低分子ペプチドや、摂食調節作用などエネルギー代謝などに影響を及ぼすペプチドを見出しており、現在、それらの作用機構を検討している。内因性ペプチドとは異なる新しい情報伝達経路を発見することが期待できる。
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