研究課題/領域番号 |
23380078
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小池 孝良 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10270919)
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研究分担者 |
佐藤 冬樹 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (20187230)
笹 賀一郎 北海道大学, -, 名誉教授 (70125318)
佐野 雄三 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90226043)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 対流圏オゾン / 二酸化炭素 / 森林衰退 / グイマツ雑種F1 / カンバ類 / 光合成 / ダウンレギュレーション / 気孔閉鎖 |
研究概要 |
最近、北海道では天塩研究林と摩周湖外輪山のダケカンバ林と北海道東部のウダイカンバ林に枯れ下がり等の衰退が顕在化してきた。この原因として、北海道では4~6月に60~90ppbに達する対流圏(地表~11kmまでの大気層)の強力なオゾン(以下O3)濃度の増加の影響が環境科学センターから指摘された。一方で大気中のCO2濃度は増加し続け、近々400ppmに達する。そこでO3とCO2の増加の複合要因が北海道の主要樹種の成長に及ぼす影響を暴露実験によって樹冠構造と光合成機能に注目し、O3の影響を解明する。特に、高CO2環境では気孔が閉鎖気味になるので、O3吸収量の抑制が期待される。調査2年目の調査結果、ダケカンバではウダイカンバとシラカンバに比べてO3による成長低下が著しかった。これはダケカンバの気孔コンダクタンスが他より高く、O3を多く取り入れたためではないかと考えた。ウダイカンバでは高CO2によるダウンレギュレーション(負の制御:予想される最大値が見られず、生育時のCO2濃度での測定値が同じ値)が見られたが、個体乾重量は増加した。逆にダケカンバではダウンレギュレーションは見られず、個体乾重量は減少した。これは葉の寿命や葉数などが減少したために起こったと考えられる。しかしO3とCO2の有意な交互作用は、どの樹種においても認められなかった。このようにCO2とO3に対する応答には、同じカンバ類という近縁種間でも種間差が存在することが分かった。また本研究では、予想に反してO3の成長に対する負の影響が小さかった。これにはOTC設立段階でのO3制御に予定以上の時間がかかったためO3の付加開始が遅れたことも影響していると思われる。付加開始時には、どの樹種も春葉が完全展開しており、O3の影響を、特に春葉の光合成機能にはあまり影響がなく、交互作用が見られなかった一因かもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物に対する実験、特にガス処理実験は、屋内の閉鎖チャンバーや温室で行われてきた。加えて、チャンバーの上部がないオープントップチャンバー(OTC)を屋外実験に用いるのは近年の流れである。また、屋内実験はもちろん、昨年度までのOTC実験ではポット苗を使用しており、実験期間も1成長期間以内であった。しかしこれらの実験系では生理的メカニズムは把握できるが、森林への現実的な環境影響を把握する際には各種の問題となる。OTCや屋内設備では他にも日射や風速、気温が自然状態と異なり、この問題を解決するため開放系のガス曝露設備もあるが、莫大なコストや、特に複数処理を行う際の反復数の確保の困難さといった点から応用例は極めて少ない。以上の理由から、O3とCO2を樹木に同時処理する際、屋外で苗木を地面に直植えし、複数成長期間にわたって半開放系のOTCや開放系設備を用いて実験を行う。この2年目に入る。 容積密度が高く、造林樹種として大きな期待が寄せられているカラマツ属に対するO3やCO2の処理実験例は我々以外には電力中央研究所での研究のみで、知見が集積したとはいえない。北海道では森林への炭素固定や木材生産といった観点から、成長が速く木材比重の高いグイマツ雑種F1(Larix gmelinii var. japonica×L. kaempferi)の利用が近年進んでいる。成長速度が高い樹種はO3あるいはCO2の単独処理の影響が大きいこと、またO3とCO2の複合処理時に高CO2によるO3ダメージの緩和作用が大きいことも示唆されている。今年度の研究では、グイマツ雑種F1に特に注目し、植え込み時に見られるカンバ類と共存させて、大気中のO3やCO2濃度上昇がどのように影響するのかについて屋外実験を2成長期間にわたって行い、苗木の応答を観察し大気変化の影響を継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
北海道大学札幌研究林において設置した半開放系(側面が一部開放した構造:強風の影響を避ける構造になった)オープントップOTCを16基設置し、中にグイマツ雑種F1の稚樹を、ダケカンバ、ウダイカンバ、シラカンバの苗木と共に地面に直に植栽した。土壌は褐色森林土である。ガス系の処理は、対照区、オゾン(O3)区、二酸化炭素)CO2区、CO2+O3区であり、各処理ごとに4つのOTCが用いられた。対照区としては外気からO3をフィルター除去した浄化大気を、CO2区ではCO2濃度が600ppmになるよう浄化大気にCO2を付加した空気を、O3区として東京近郊で通常観測されるO3濃度の60ppbになるよう浄化大気にO3を付加した空気を、CO2+O3区ではCO2区とO3区の複合処理による空気を日照時間中チャンバー内に導入する。処理は植栽後2年目の生育期間(5~11月)に行う。その期間中OTC内と外気のCO2とO3濃度を測定する。また、開葉が終わって個葉の成熟する8~9月には光合成測定を実施する。実験終了後に掘り取りバイオマスを測定し、実験期間中には樹高や幹直径などのサイズ・パラメータを測定する。また葉の寿命に注目し、葉の養分の回収率を推定し、分解系への推定につなげたい。さらに、対象としている樹種は外生菌根菌(EMC)に依存する生育を行うので、各処理についてECMの感染率と組成を調査し、光合成産物の分配を考察したい。この場合、ECMの感染率は実体顕微鏡で観察し、切片を作成してハルティヒネットの構造形成を確認する。また、PCR(Polymerase Chain Reaction)法を用いて感染種の同定をおこなって最終年に向けて、植栽立地への提言を行うための基礎情報として成果を貢献したい。
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