研究課題/領域番号 |
23380080
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
呉 炳雲 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (10396814)
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研究分担者 |
松下 範久 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00282567)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 共生 / 多様性 / 外生菌根菌 / 根外菌糸体 / トレーサー実験 / アミノ酸 / 転流 |
研究概要 |
森林生態系では,多種多様な菌根菌が際立って多様性の高い安定した菌根菌群集構造を維持している。本研究では,この菌根共生系の多様性を生み出すメカニズムや多様性が持つ生態的意味に着目し,地下部における菌糸体ネットワーク間の相互作用及びそれと菌根共生機能との関係を明らかにすることを目的とする。平成24年度は,以下の成果が得られた。 1)八ヶ岳の亜高山帯針葉樹林内において,露岩上のコメツガ稚樹を採集し,根系の位置を記録しながら,すべての菌根を採取した。採取した菌根のDNA解析により,各菌根に共生していた菌根菌種を同定した。その結果,各菌種がそれぞれ1~数cm程度のパッチ状に分布する傾向が見られた。このことは,菌根から伸長した菌糸が近くの根端に感染して新たな菌根を形成するという菌根菌の感染拡大様式を反映していると推測された。 2)クロマツ-コツブタケ共生系を用いて,シュートから14CO2を光合成により取り込ませたり,根外菌糸体あるいは非菌根の根端から14C-グルコースや14C-アミノ酸,33P-リン酸を取り込ませた後,炭素またはリンの転流過程を,イメージングプレートを用いた経時的定量オートラジオグラフィーにより解析した。その結果,菌根や根外菌糸体が炭素とリン酸に対して高いシンク能を持つこと,炭素は宿主から菌根菌へ,リンは菌根菌から宿主への転流の方向性があることが明らかにされた。また,菌糸から菌根への養分転流においては,菌根のシンク能と宿主の蒸散とは関係がないことが解った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
露岩上に生育する樹木の根系がほぼ二次元に広がっていることに着目し,1本の樹木根系に形成されたすべての菌根の位置とそれらの菌根に共生している菌種を詳細に調べることにより,地下部における菌根菌の詳細な分布を明らかにすることができた。これにより,本研究の目的の1つである森林の地下部における多種の菌根菌の共存機構の解明に大きく近づいた。また,トレーサー実験による共生系内の養分転流の解明に関しても,宿主植物と菌根菌の間の養分転流が,何時,どこからどこまで転流するのか,転流に方向性があるのか等を明らかにするための実験が順調に進んでいる。これらのことから,本研究は,当初の予定通りおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)コメツガ稚樹の根系調査から,土壌中には様々な菌根菌種の感染源(胞子や菌糸の断片など)が存在するにも関わらず,種毎のパッチが形成されていた。このことから,新たに形成された菌根から伸長した菌糸は,土壌中の他の感染源よりも菌根形成能力が高い,もしくは菌糸量が多いと推測された。この2つの仮説のどちらが正しいのかについて,実験的に検証していく。 2)共生系内の養分転流の解明に関しては,これまでのトレーサー実験に加えて,安定同位体比質量分析や,NanoSIMSを用いた解析を新たに取り入れることにより,共生系内における宿主と菌根菌間での炭素や窒素の物質転流を詳細に明らかにする。そのために,14Cで標識または13Cと15Nで二重標識したアミノ酸をクロマツ-コツブタケ共生系の根外菌糸体に取り込ませ,その行方を追跡する。
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