研究課題
植物の多くは菌根を形成することによって、土壌中のリンやカリウムを効率よく吸収し、菌根菌は植物から光合成産物を吸収している。アカマツなどと菌根を形成するマツタケは菌根菌の代表的な例である。マツタケ菌根が旺盛に生育している領域はシロと呼ばれており、マツタケの子実体はシロで発生する。シロの内部は外部に比べて微生物の種類も量も少ないことが知られている。この原因としてシロに抗菌物質が含まれていることが示されている。抗菌物質はシロの維持と拡大に貢献していると推定されるが、その実体は依然として不明である。本研究は、この抗菌物質を単離・構造決定し、その生態学的役割を明らかにすることを目的とした。京都府坂井研究林で採取したアカマツのマツタケ菌根を含むシロの抽出物は枯草菌に対して強い抗菌活性を示した。長野県で採取されたツガのマツタケシロの抽出物も同じように抗菌活性を示したことから、樹種と地域が異なっても、マツタケシロは抗菌活性を示すことが明らかとなった。前者の抽出物をODSカラムやゲルろ過カラム、イオン交換カラムを用いて精製した結果より、主な抗菌物質は熱に安定な水溶性物質と推定された。ジアゾメタン処理によって抗菌活性が低下した。類似した性質を持つ既知の水溶性抗菌物質として、乳酸やアミノグリコシド系抗生物質などとクロマトグラフィーによって比較したが、それらとは挙動が異なっていた。抗菌物質は紫外吸収を持っていないため、HPLCに屈折率計を利用して検出を試みたが、今のところ有意な成分は検出できていない。今後、抗菌物質を検出するため、紫外吸収ラベルを結合させた誘導体化を試みる予定である。
3: やや遅れている
マツタケシロの抗菌物質の単離が計画よりも遅れている。理由は抗菌物質が水溶性でしかも紫外吸収を持たないため、精製や検出が容易ではないことにある。今後、その精製方法の改良を進める予定である。なお、当初困難と思われた実験材料としてのマツタケシロの供給は、共同研究者や協力者のおかげで心配のない状況になっている。
計画より遅れていることを除いて、特に大きな計画の変更は予定していない。
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