研究概要 |
先行研究により,北海道阿寒白糠南部地域のヒグマ個体群は,分布中心部から周縁部への高い分散率,および周縁部で高い駆除率があることから,その分布周縁部は,生息地の質が高くかつ死亡リスクも高いattractive sinkとなっている可能性が示唆された。そこでこの仮説を検証し個体群の保全と被害管理に応用するため,1)個体群およびその生息環境の空間的異質性の解明とその被害発生パタンとの関係を明らかにすること,2)適切な個体群管理のために生息密度や繁殖指標の空間的勾配とその動向を広域的にモニタリングする方法を開発することを目標に研究を行った。1)については,学術捕獲個体のGPS追跡,および痕跡(体毛)や捕獲個体試料のDNA個体識別による個体の移動・分散の追跡を開始した。平成23年度は2頭を学術捕獲しGPS追跡することに成功した。また体毛397試料,および捕獲個体23個体分のDNA解析用試料を回収した。今後解析を進める予定である。有害駆除された個体の内臓脂肪量,森林内で発見されるヒグマの糞内容物を指標として,クマの栄養状態および採食資源の空間分布パタンの検討も開始した。また死亡リスクの時空間的な分布とその変化を評価するため,有害駆除個体の捕獲地点の解析も開始した。2)については,これまで局所スケールで断続的に実施してきた背擦り木を利用したヘア・トラップ法による体毛試料回収を広域的に展開し,かつ背擦り木を模したトラップを設置することによる体毛回収システムの構築を開始した。これによりDNA個体識別に基づく個体群内の相対的な生息密度勾配とその変動を継続的にモニタリングするための簡便な方法の検討と普及のための提案を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学術捕獲に関しては,分布周縁部で2頭の捕獲に成功した。分布中心については,国有林からの許可が得られなかったため,道有林北部で実施する予定である。捕獲だけでなく,DNA個体識別による移動検出も併用する。北海道内の駆除個体のデータベースおよび回収試料を利用した解析は順調に進んでいる。背擦り木トラップの設置も白糠町方面はほぼ終了した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,ヒグマの移動・分散実態については,学術捕獲をすすめ分布周縁部および中心部でのGPS追跡個体を増やすとともに,DNA試料の回収・分析を進め,実態を示す証拠を得る。広域的なヒグマの生息環境・死亡リスクの空間的異質性については,23年度に取り組んだ課題について解析を進める他,糞中窒素含有量分析,安定同位体解析など新たな方法も検討する。広域モニタリング手法に関しては,背擦り木トラップを足寄町,阿寒町方面に拡大する予定である。
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