研究課題/領域番号 |
23380104
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
林 隆久 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (70231529)
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研究分担者 |
太治 輝昭 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (60360583)
矢野 浩之 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (80192392)
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キーワード | ヘミセルロース |
研究概要 |
キシログルカンのバックボーン鎖、1,4-Glucanは、セルロースミクロフィブリルと水素結合によって結合しており、細胞壁を引き締める働きを担っていると推測されている。倒されたポプラの枝が重力に応答して上に持ち上がるのは、このキシログルカンがセルロースと結合して引っ張り応力をもたらすことによると考えられている。これまで、木部二次壁にはキシログルカンが存在しないと考えられていたが、この引っ張り応力にキシログルカンが関与していることが分かってから、キシログルカンは二次壁にも僅かではあるが普遍的に存在すると考えられる。 キシログルカナーゼ(AaXEG2) を発現する組換えポプラと野生株ポプラにおいて木部セルロースミクロフィブリルの結晶性を比較したところ、TEMPO酸化によりセルロースミクロフィブリルを解繊した場合もしない場合も、組換えポプラの結晶化度が野生株より高いことがX線回折から明らかにされた。これは、キシログルカンがエレメンタリーファイバー表層にあり、セルロースの結晶性を乱していることを示している。すなわち、エレメンタリーファイバー表層にあるグルカン鎖にキシログルカンが結合し、組換え株ではその表層のグルカン鎖の並び方が規則正しくなり、結晶化度が上がったと推察した。 また、酵素糖化性について組換えポプラと野生株ポプラを比較した結果、組換えポプラの糖化レベルが増大した。その木部横断面をSEMで観察したところ、組換え株の方がよく分解され、壁が薄くなることが分かる。ホロセルロースにおいても、同様に組換えポプラの方がよく糖化され、キシログルカンは、セルロース繊維に強く編み込まれていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポプラ木部繊維細胞の内腔表面を免疫染色し、共焦点レーザー顕微鏡によって観察した結果、野生株の木繊維内腔表面のS3, S2層セルロースミクロフィブリルに沿ってキシログルカン蛍光標識が観察された。一方、組換えポプラでは極低いレベルの標識しか認められなかったことから、キシログルカンは、普遍的に二次壁に存在することが示された。 また、上記の研究実績でも述べた通り、組換えポプラの結晶性が高くなり、セルロースミクロフブリルにキシログルカンが編みこまれている可能性が支持された。これらの結果が得られたことから、本研究は、おおむね進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
リコンビナントキシログルカン転移酵素を作成シ、キシログルカンオリゴ糖XXXGの還元末端に金粒子をつけてXXXG-Gold を調製する。二次壁表層にXXXG-Gold がリコンビナントキシログルカンによって転移されるかどうかを調べる。 Fry et al. (2008) は、一次壁からアルカリで抽出したマトリックス多糖をイオン交換、及びゲル濾過クロマトグラフィーにかけ、キシログルカンがペクチンと共有結合している可能性を報告している。また、シロイヌナズナにおいて、キシロース転移酵素(XXT1, XXT2)二遺伝子をノックアウトした変異体は、キシログルカンがほとんど検出されないにもかかわらず、成長パターンや形態が大きく変わらないことが明らかにされた。 このようにフェノタイプは、大きな影響を及ぼさないが、細胞壁の物理的性質は大きく変わることが明らかにされた。すなわち、キシログルカンが減少した変異株のヤング率が低下した。野外で栽培した組換えポプラの形態は、ナズナ同様に大きな差異は見られなかった。そこで、木部の力学的強度は変わるのかどうか、木部におけるキシログルカンの機能を調べる必要性が生じた。 さらに、最近では、固体NMRによる解析から、ペクチンがキシログルカン以上にセルロースと接着していること、キシログルカンの主鎖にGalAが結合していることが報告されている。二次壁におけるキシログルカンの存在様式として他のマトリックス糖鎖と結合性も検証する必要が生じてきた。
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