研究概要 |
我国の重要な水産資源であるサケは、稚魚期に記銘された母川水のニオイを頼りに親魚が繁殖のため母川回帰する。サケの母川水ニオイに対する嗅覚記憶機構を解明するために、嗅覚記憶に関連する脳内分子について次の5点に着目して研究を行い、平成23年度の実験により下記のような成果を得た。 1)サケ脳のNMDA受容体遺伝子の解析:ヒメマスのNMDA受容体遺伝子サブユニットGluN1とGluN2(A,B,C,D)の塩基配列を解析し、GluN1は2400bp、GluN2(A,B,C,D)は各1500bpの解読を行い、in situハイブリダイゼーション法により発現部位の観察、およびリアルタイムPCR法により発現量を解析する準備を進めている。 2)サケ稚魚の母川記銘時のTRHとNMDAの役割:シロザケのTRHおよびTRHレセプター(TRHR)遺伝子の発現量を測定する実験系を立ち上げている。 3)サケ親魚の母川想起時のGnRHとNMDAの役割:ヒメマス親魚の脳各部におけるsGnRHとcGnRH-IIホルモン量の変動を時間分解蛍光測定法でマルチラベルプレートリーダー【平成23年度購入備品】により測定し、sGnRHとcGnRH-IIホルモン量が脳各部位において性成熟期に増加することを解析した。また、MNDA添加によりsGnRHの分泌量が増加することを解析した。サクラマスのsGnRHとcGnRH-II遺伝子情報に基づき、ヒメマスのsGnRHとcGnRH-II遺伝子の解析準備を進めている。 4)NMDA受容体阻害剤がサケの嗅覚記憶に及ぼす影響:ヒメマス1歳魚を用いてNMDA受容体の競合阻害剤のD-AP5と開口チャネル阻害剤のMK-801投与実験による人工記銘実験の予備実験を行っている。 5)他河川迷入サケの嗅覚記憶の解析:耳石温度標識された千歳川水系のシロザケを用いて、豊平川および漁川への迷入率を解析する準備を進めている。
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