研究課題
サケは、稚魚が生まれた川(母川)のニオイを降河時に記憶(記銘)し、親魚がそのニオイを遡河時に想起して母川回帰する。サケの母川水ニオイに対する嗅覚記憶機構を解明するため、嗅覚記憶に関連する脳内分子を解析する研究を行い、下記のような成果を得た。①サケ脳のNMDA受容体遺伝子の発現量と発現部位解析:シロザケのNMDA受容体遺伝子必須サブユニットNR1の発現量をリアルタイムPCR法、発現部位をin situハイブリダイゼーション法により解析した。シロザケ稚魚の降河回遊に伴い、NR1の発現量はふ化場から放流された後に増加し始め、河口付近で最大となった。発現部位は、嗅球からの嗅覚情報が投射される終脳の腹側部においてふ化場から放流された後にNR1発現神経細胞が増加した。②稚魚の母川記銘時のTRHとNMDAの役割:上記の降河回遊に伴い、TRHa・b遺伝子の発現量はふ化場から放流された直後に急上昇し、TRHa・bの活性化がNR1に作用している可能性が示唆された。平成26年度は、TRH・T4を投与してNR1遺伝子がどのように変化するかを解析する。③親魚の母川遡上時のGnRHとNMDAの役割:ベーリング海から母川に回帰するシロザケ親魚のNR1遺伝子発現量は、遡河回遊に伴い上昇した。平成26年度は、sGnRH遺伝子がどのように変化するかを解析する。④NMDA受容体阻害剤が嗅覚記憶に及ぼす影響:NMDA開口チャネル阻害剤MK-801の投与によりサクラマス・ベニザケスモルトのNR1遺伝子の発現量および嗅覚応答がどのように変化するかを実験する予定である。⑤他河川に迷入するサケの嗅覚記憶:千歳川に回帰するシロザケ親魚を用いて、Pitタグシステムを導入したY字水路において、千歳川・石狩川・豊平川の河川水の選択行動を解析しており、耳石温度標識された千歳川起源のシロザケの迷入率を解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度に行う予定であった5つの研究項目に関する実験は、おおむね順調に進展しており、平成26年度の実験の準備を進めている。
平成25年度に得た実験結果を検証するとともに、平成26年度の実験をより確実に実行する。シロザケ稚魚および親魚の電気生理学的な嗅覚応答測定も行う予定である。
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