研究課題/領域番号 |
23380120
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
細川 雅史 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (10241374)
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研究分担者 |
安井 由美子 酪農学園大学, 獣医学部, 講師 (90434472)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 海洋性カロテノイド / 慢性炎症 / 抗メタボリックシンドローム予防作用 / 潰瘍性大腸炎予防効果 / サイトカイン / ケモカイン / フコキサンチン |
研究概要 |
①脂肪組織-免疫細胞間の相互作用制御:これまでに明らかにしたケモカインに加え、T細胞の遊走能を有するIP-10の白色脂肪組織におけるmRNA発現量とその血清濃度がFxにより低下することを見出した。一方、Fx代謝物で処理したマクロファージ様細胞では、ケモカインレセプターであるCCR5やCCR2のmRNA発現量が低下した。これらの結果は、Fxによる脂肪組織とマクロファージの相互調節作用による慢性炎症の抑制機構を示すものであり、抗肥満や抗糖尿病効果の作用基盤と推察される。 ②脂肪組織-骨格筋組織間の相互作用制御:Fxは糖尿病/肥満KK-Ayマウスの骨格筋組織において、糖代謝の律速であるGLUT4を活性化した。また、インスリンおよびエネルギー代謝の亢進により炎症制御に関わるleptinの血清濃度の低下に加え、それらの生体内感受性亢進の指標である肝臓SCD1の発現低下が見られた。更に、FxはKK-Ayマウスの骨格筋組織においてマイオカインであるIL-15やirisinのmRNA発現量を増加させた。これらの結果は、Fxが脂肪組織と骨格筋組織の糖代謝に関わる相互作用を改善または活性化することを示す興味深い結果であり、血糖値改善効果の分子機構と推察される。一方、Fxと類似構造をもつネオキサンチンが、KK-Ayマウスの血糖値を改善したことから炎症抑制作用を介した分子機構の解明が期待される。 ③大腸組織と免疫細胞間の相互調節作用:FxがDSSによって誘導される潰瘍性大腸炎を抑制することを示したが、大腸組織においてTNFaやIL-6などの炎症性サイトカインのmRNA発現に抑制傾向が見られたことから、大腸細胞と免疫性細胞の相互作用の抑制による予防機構が示唆された。一方、ペクテノロンを含むホタテガイ卵巣脂質がDSSによって誘導される潰瘍性大腸炎を抑制したことから、生体における抗炎症作用が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、海洋性カロテノイドの炎症性疾患に対する予防作用のメカニズムとして慢性炎症抑制機能とそれに関わる組織・細胞間相互調節作用の解明を行っている。本年度の研究では、フコキサンチン(Fx)による脂肪組織の慢性炎症抑制作用に関わる分子機構として、あらたに脂肪組織におけるIP-10の産生抑制を見出した。昨年度の研究において見出したケモカインを含め、複数の因子がFxの作用に関わっていることを明らかにできた点は、当初の計画以上の成果といえる。また、本年度はFxの脂肪組織と骨格筋組織との相互作用に対する制御因子の探索と作用機構に関して検討を行った。その結果、当初予想した脂肪組織由来のアディポカインの産生抑制やそれらに対する感受性の亢進によるインスリン抵抗性の改善効果を明らかにし、その成果の一部を論文発表した(研究発表参照)。更に、Fxが骨格筋組織においてIL-15に加え、irisinのmRNA発現量を増加させることを見出した点は、骨格筋組織から脂肪組織への作用を示唆する大変興味深い知見であり、今後の研究を大きく展開させる成果といえる。加えて、血糖値改善作用を有するカロテノイドの構造的な特徴としてアレン結合の重要性を明らかにしたことから、本研究課題の構造活性相関に関する到達目標を達成できた。また、Fxによる潰瘍性大腸炎や大腸発癌予防機構として、炎症性サイトカインの産生抑制を介した大腸細胞と免疫細胞の相互作用の可能性を明らかにした。更に、潰瘍性大腸炎の予防に対するペクテノロンの予防効果を明らかにし、海洋性カロテノイドの優れた効果を新たに見出すことができた。一部、脂肪組織と大腸組織との相互作用については明確な結果が得られてはいないが、概ね当初の計画通りの成果といえる。全体的に平成24年度の研究計画に対して概ね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまで明らかにしてきた海洋性カロテノイドのフコキサンチンやアスタキサンチンによる組織・細胞間相互作用を介した慢性炎症の抑制機能に関して、それらの分子機構の解明を中心に研究を進める。 これまでに脂肪細胞や大腸細胞とマクロファージやT細胞などの免疫系細胞との相互作用に関して、重要な役割を担うケモカインを推定できたことから、平成25年度はそれらによる浸潤誘導作用の詳細を明らかにするとともに、細胞内におけるケモカイン産生機構への影響についても更に研究を進める。また、平成25年度は新に免疫細胞の浸潤を抑制する因子の探索を行うことで、海洋性カロテノイドによる脂肪組織や大腸組織での慢性炎症抑制機構の総合的な解明を進める。慢性炎症の抑制に有効なカロテノイドとして褐藻由来のフコキサンチン、サケやエビ、カニ等に含まれるアスタキサンチンの有効性と分子機構を明らかにしてきたが、それ以外にもホタテの卵巣由来のペクテノロンや緑藻由来のネオキサンチンの効果を見出したことから、同様に詳細な炎症抑制機構について研究を進める。 更に、平成24年度の研究において見出した大変興味深い結果として、脂肪組織と骨格筋組織との相互作用を示唆する骨格筋細胞由来のマイオカインの産生が上げられる。平成25年度は、それら骨格筋由来のマイオカインによる脂肪組織との相互作用を介した炎症抑制機構とそれに関わる抗肥満、抗糖尿病作用に関わる新たな分子機構の解明をはかる。 平成25年度は本研究課題の最終年度であることから、研究全体の総括を踏まえながら研究を展開するとともに、得られた知見に関しては積極的に学会発表や論文発表を行う。
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