研究概要 |
本研究の目的は,健全な養殖魚の生産のために新しい魚類の健康診断法の確立を念頭におき,人間ドックの魚版ともいえる「さかなドッグ」を創出することである.本年度は,水産養殖分野において迅速・簡便な測定法の確立が望まれているストレス度の測定,産卵時期の予測に対応可能なバイオセンサを開発することを目的とした. 1.ストレス度測定のための用酵素バイオセンサの製作:魚類の血中グルコース濃度は,魚のストレスの度合いを知る指標の一つとして知られている.そこで,電子メディエーターとなるフェロセン誘導体をグルコースオキシダーゼ(GOD)とともにポリピロールに固定化することにより,血中の溶存酸素量に影響されない新規の血糖値測定用バイオセンサの製作を試みた.その結果,GODの酵素反応においてメディエーターを介した電子移動による酸化還元反応が生じ,血液中の溶存酸素濃度に依存しないグルコースセンサを構築することができた.また,ティラピアを遊泳させた状態で,本センサを用いてその血糖値を測定したところ,2日間に渡ってのリアルタイムモニタリングに成功した. 2.産卵時期予測のための非標識免疫バイオセンサの製作:卵成熟誘起ホルモンの1種である17,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(DHP)は,魚類排卵時期予測の指標となることが知られている.そこで,抗DHP抗体を用いて抗原抗体反応における電極表面特性の変化をサイクリックボルタンメトリー(CV)にて捉えることにより,非標識抗体によるDHP測定用バイオセンサの製作を試みた.その結果,DHP濃度7.8~500pg ml^<-1>の範囲においてセンサの出力電流値との間に直線関係が認められ,その定量が可能であった.また,催熟したキンギョの血漿中のDHP濃度を本システムを用いて測定したところ,従来法(ELISA)の測定結果との間に相関を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は初年度ということもあり,各種バイオセンサの基礎的な開発研究(電子メディエータ応用の可能性,抗原抗体反応のCVによる解析等)を中心に検討を行った.その結果,バイオセンサによる血中グルコースおよびDHPの定量が可能となり,その成果は順調に得られているものと考えられる.
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