EUでは、環境に配慮した農業生産を行うなどの一定要件を満たした農業生産者に補助金等を支払うというクロス・コンプライアンス(CC)を適用した農業政策が実施されている。財政制約が厳しくなっている日本においても、広く国民的な合意を獲得しうる農業政策を展開して行くために、こうしたCCを適用した新たな農業政策を設計して行くことは、極めて重要な課題である。日本においてもCCを適用した補助金等の支払いをうけるためのCC受給要件は、環境保全など、様々な取り組み例が想定される。これらCC受給要件を、農業由来の環境負荷抑制や多面的機能などの外部性効果発揮とみなして経済評価して、CC受給要件の具体的内容を設計に資する手法の開発や適用を試み、CCを適用した新たな農業政策の設計に資する基礎的知見を得ることが、本研究の課題である。こうした研究課題の解明に接近すべく、本年度は、クロス・コンプライアンス要件が、政策に適用される場合に、考慮すべき論点に関する研究サーベイと実態調査を実施した。具体的には、クロス・コンプライアンス要件が、政策に適用される場合に、考慮すべき論点については、国内外の学術論文・文献を、電子ジャーナルなどを利用してサーベイし、また学会参加なども通じて関連する最新の研究情報を入手した。さらに、昨年度から引き続き、開発手法の適用対象となる日本の事例に係る実態調査を実施した。クロス・コンプライアンス要件が、政策に適用される場合に、考慮すべき論点として、社会的に望ましい環境水準の設定、ならびに農家と社会の責任分界点であるレファレンスレベルにおける環境水準の設定が重要となる点が示唆された。
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