研究課題/領域番号 |
23380136
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 修一郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (90355595)
|
研究分担者 |
高橋 智紀 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 主任研究員 (00355562)
西田 和弘 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (90554494)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 土壌の物理性 / 土壌の化学性 / 酸化還元 / 土壌の保水性 / 膨潤収縮 / 粘質土 / 土壌構造 / 水田土壌 |
研究概要 |
有機物施用条件(無施用、稲わら、麦わら、稲わら堆肥)と採取時期(中干し前、水稲収穫期、小麦収穫期)の異なる粘土質水田の不攪乱土の保水特性および、これらを風乾して粉砕し、サンプラーに充填した後、高温湛水下、低温湛水下で2週間吸水させた試料(還元処理あり、還元処理なし)の保水特性を比較し、次の結果を得た。 作土の保水量は、水稲収穫期の方が中干し期より多くなっており、落水後も高温で一定の水分が維持された場合には土壌の還元が進行し膨潤が進むことが示唆された。また、有機物施用区の方が無施用区よりも保水量は多く膨潤する傾向が認められた。しかし、施用有機物の違いによる明瞭な差は認められなかった。-80kPa以下の堅密な間隙は水稲作付け期間中に増加する傾向が見られた。 風乾土を再充填し、飽和させた試料では、還元処理を施した場合、有機物施用区で低サクションレンジ(飽和~-10 kPa)の塑性的な間隙量が増加した。また有機物施用の有無にかかわらず、還元処理は同サクションレンジの弾性的な間隙量を増加させた。一方で、不撹乱土で見られた還元による-80kPa以下の堅密な間隙の増加は認められなかった。すなわち、還元による堅密で小さな間隙の変化には、より長い時間を要することが示唆された。 乾燥処理による土壌の微細構造の直接的な観察に対しては、次の結果を得た。 臨界点乾燥と水銀圧入試器ポロシメトリを組み合わせ、非破壊土壌の微細構造の定量化を行った。土壌構造を破壊しない臨界点乾燥処理を行った試料では通常の乾燥処理に比べ、10nm付近に大きな孔隙を有し、100nm付近のピークが孔隙径が小さい方へシフトする傾向が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の想定より、水稲作付け期間後半の調査ほ場の水分状態が、湿潤側であったことにより、急激な乾燥による影響を評価することができなかった。その反面、夏期の飽水状態がさらなる還元の進行につながることを確認し、その事実と保水量の増加との関わりが観測できた。今年度までの採取土壌の分析により、水田土壌の保水量の時期による変化が、土壌水の負圧の増減による力学的な収縮・膨潤のみによるものではないことが明白になり、また、鉄の分析等から、酸化還元状態の変化が、ゆっくりとした膨潤に関与していることを示唆する結果が得られた。これらのメカニズムを裏付けるデータが現時点では不足しているものの、保水性についてはおおむね予定通りのデータを取得することができた。以上から、当初の計画に若干の修正は必要であるが、おおむね順調に研究が進んでいると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
酸化還元状態が水田土壌の保水特性に及ぼす影響の機作を明らかにするため、飽水状態で練り返した土壌に対し低温および高温条件下で湛水処理を行い、その過程での保水特性や鉄の形態の詳細な分析を行う。特に、鉄の形態分析については、酸化還元による変化の速度を考慮し、また、これらの形態の鉄の存在部位に着目し、間隙の力学性との関わりを探る。また、酸化還元による保水量の変化を伴う収縮膨潤挙動を表す構成モデルを考案し、その検証を行う。微細構造の直接観察については、遊離酸化鉄を土壌に添加し、添加および還元処理が微細構造に与える影響を水銀圧入試器ポロシメトリを用いて定量する。
|