研究概要 |
霜降り肉等の高品質な牛肉生産のため,農家は肥育牛にストレスを与えず,経験と勘に基づき,血中VA濃度を制御する給餌方法を採用している。しかし,経験と勘だけではVAが適正に制御できないことも多々見受けられ,VA欠乏となった場合には,食欲低下,筋肉水腫や失明等の病気が生じることも少なくない。そこで,非侵襲,短時間で血中VAが計測可能な装置が切望されており,本研究グループではマシンビジョンを利用した瞳孔反射に基づく血中VA濃度の計測装置の開発を目的として研究を開始した。 これまで本研究グループでは,種々のカメラによって以下の知見を得ている。1)瞳孔の色とVAとは相関があり,眼底では明輝板(網膜)の色等がVAの減少と共に変化すること,2)近赤外領域では,可視領域と異なり,瞳孔と虹彩との明度の関係が逆転すること,3)光照射後,0.3秒以内の短時間の瞳孔の収縮速度ならびに瞳孔面積比率とVAとの間に相関があること,4)血中VAが低くなると,眼球表面での光反射強度が小さくなる傾向があること,5)いずれの計測項目も牛個体によるばらつきがあり,単独で直線近似したときの決定係数は0.3~0.6程度であること。 本研究では瞳孔を瞬時に画像計測し,瞳孔の色,収縮速度,光反射強度等の計測項目データを数多く取得,解析することで,各計測項目と血中VAとの関係および寄与度を明らかにし,多変量解析等に基づいたVA推定可能な計測システムを構築する。同時に,牛個体のばらつきに対応するため,月齢10ヶ月から出荷直前の30ヶ月までの牛を対象にして,約20ヶ月間におけるそれぞれの牛の経時的変化のモデルを作成する。さらに,雌雄の違いによる考察を加え,必要に応じて雌雄別のモデルを作成する。これらにより,各個体が有するオフセット,変化率の違いによるデータのばらつきが把握可能となり,血中VAの推定精度向上が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,計測を行い,瞳孔の色,光反射強度に関して以前のデータと同等あるいはそれ以上の良好な結果を得ていることより,モデルの作成も可能である。収縮速度に関しても,以前のデータと同様のデータが得られたことより,今後,多変量解析を用いたビタミンAの推定も行えると考えている。さらに,餌箱,水飲み箱にカメラをセットして自動的にデータが取得可能か否かに関してもチャレンジしようとしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後,本研究成果の実用化も考慮に入れ,自動的に画像データを取得可能な方法を検討している。今年のルーチンワークに加えて,RFID,小型カメラ等による撮像およびデータ蓄積の可能性も検討する予定である。研究計画の変更としては,そのような新しいデータ取得の自動化に関する試みを加えるという点で,それには牛が慣れること,カメラや照明の再設定が必要となる。 一方,データ解析は予定通り続け,ビタミンA推定を目的とした多変量解析のためのモデリング,検量線の作成を行う。対象とする牛は第1期および第2期の牛から第3期および第4期の牛に移行して,再現性の確認も行う。
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