研究課題
ウシ栄養膜細胞の機能と分化機構を検討し、胎盤における栄養膜細胞の役割を明らかにすることを目的とし、今年度は、栄養膜細胞に特異的に発現する遺伝子と分化誘導との関連性について検証した。細胞譜系特異的遺伝子特定のため、Matrigelを用いて多核化を誘導、誘導前後の遺伝子発現動態をマイクロアレイ及び定量的RT-PCRにより解析した。BT-1、-Cならびに-K細胞を用いて、二核特異的遺伝子(CSH1、 PAG、PRP等)の発現を検索、BT-1及び-C細胞でこれらの遺伝子がMatrigel培養では、著しく上昇することを認めた。また、細胞系に発現する特異遺伝子群の検証から、内在性レトロエレメント遺伝子が栄養膜細胞に特異的に発現することを認めた。その内、bERVE及びBERV-K1遺伝子は二核細胞に特異的で有った。Matrigel培養による二核細胞誘導とレトロエレメント遺伝子発現の上昇とは一致した。他方、単核細胞に特異的に発現するIFNT遺伝子もMatrigel培養で上昇したが、On-gel培養でより高い発現であった。これらの結果から、BT-C細胞に絞り、培養基質よる遺伝子発現動態を検索した。8日間のMatrigel培養では、コラーゲンコート培養に比較して124遺伝子の特異的な上昇を認めた。アレイデータのIPA解析からMatrigel培養では二核細胞関連遺伝子並びにIFNT遺伝子パスウェイの活性化が裏付けられた。更に、細胞譜系特異遺伝子制御要因解明のため、CSH1並びにPRP1遺伝子の上流域に存在するCpGアイランド中のDNAメチル化状態をbioinformatic解析し、高頻度のメチル化領域および低メチル化領域を再確認した。これらの検証から栄養膜細胞特異遺伝子の発現には、遺伝子上流のCpGアイランドのメチル化が関与し、栄養膜細胞の多核化制御と深く関連することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
栄養膜細胞の遺伝子発現系の解析から栄養膜細胞で発現する内在性レトロエレメント因子を新しく見出し、この分子が多核化誘導に関連するかを検証し、栄養膜細胞の融合能を導くという新規の多核化現象を発見した。この分子発現と細胞融合能の関連を明らかにすることが出来た。そのため、液生因子での多核化誘導にこだわることなく、栄養膜細胞の多核現象解明を進めることが可能となった。それゆえ、今後は、ウシ栄養膜細胞の細胞譜系検証のカギである細胞の二核化成立が本分子による融合現象としてとらえることが可能かという、新しい視点での研究展開を進める。
栄養膜細胞に発現する遺伝子を特異的に欠損させる細胞系の確立は、細胞の特殊性から、即ち、本細胞株では遺伝子発現の抑制処理後の細胞や欠損細胞ではほとんど増殖性を示さないため、非欠損細胞株を用いた検証に転換することが必要と考えられ、効率的な細胞塊作製法と細胞塊の機能解析を実施する。
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