研究課題/領域番号 |
23380164
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
南 直治郎 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30212236)
|
研究分担者 |
松本 和也 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20298938)
塚本 智史 独立行政法人放射線医学総合研究所, 研究基盤センター, 技術職員 (80510693)
|
研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
|
キーワード | 胚性ゲノムの活性化 / エピジェネティクス / 受精卵 / ヒストンメチル化 / Chd1 / タンパク質分解 / ユビキチンプロテアソーム / リソソーム |
研究概要 |
本研究では、クロマチンリモデリング因子とタンパク質分解機構が胚性ゲノムの活性化にどのように関与しているかについて検討を行った。 H3K4me3を認識するクロマチンリモデリング因子であるChd1あるいはIng3を抑制するsiRNAを受精直後の胚に導入し、胚の発生および遺伝子発現パターンを正常の胚と比較することで、標的遺伝子が胚性ゲノムの活性化に関与しているかどうかについて解析を行った。その結果、Ing3を抑制した胚においては正常の胚と発生や遺伝子発現に大きな違いはなかったが、Chd1を抑制した胚では、多能性の維持に必要なOct4の発現が本来急激に増加する4細胞期から着床前まで抑制されていることが明らかになった。またこの抑制によって、受精卵の全能性が失われていることも明らかになった。初期胚のこの時期においてOct4の発現を調節している因子の同定は本研究が初めてであり、受精卵の全能性の獲得や維持がどのようなメカニズムによって制御されているかを知るうえで非常に重要な発見である。 また、受精直後のマウス初期胚では母性タンパク質の分解が必要であることが明らかになっており、受精直後のマウス初期胚におけるユビキチンプロテアソーム分解系の関与について検討した結果、プロテアソーム阻害剤処理によって1細胞期後期あるいは初期2細胞期で発現するhsp70.1、MuERV-1、eif-1a、およびzscan4d遺伝子の発現開始時期が遅延することが明らかになった。また、もう一つのタンパク質分解経路であるリソソームの機能を阻害すると胚発生が停止し、卵細胞質にはリポフスチン様の構造体の蓄積が観察された。これらの結果から、クロマチンリモデリング因子およびタンパク質分解経路が受精直後に活発に活性化しており、胚性ゲノムの活性化を制御することで、胚の正常な発生に寄与していることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、胚性ゲノムの活性化に関わるクロマチンリモデリング因子の解析、およびタンパク質分解がゲノムの活性化に及ぼす影響にいついて実験を計画したが、クロマチンリモデリング因子についてはヒストンH3のリジン残基のメチル化を認識するChd1が胚の全能性あるいは多能性を制御しているOct4の発現を制御していることが明らかとなった。また、タンパク質の分解経路であるユビキチンプロテアソーム系の経路を阻害すると、1細胞期後期あるいは初期2細胞期でその発現が報告されているhsp70.1、MuERV-1、eif-1a、およびzscan4d遺伝子の発現開始時期が遅延することが明らかになった。ゲノムの活性化が影響を受けることを明らかにできた。また、もう一つのタンパク質分解経路であるリソソームの機能を阻害すると胚発生が停止し、卵細胞質にはリポフスチン様の構造体の蓄積が観察された。またリソソーム内の主要な分解酵素であるカテプシンに着目して解析した結果、受精卵には成熟型カテプシンが豊富に存在することが分かった。これらの結果は、リソソームを介した分解経路が受精直後に活発に活性化しており、母性タンパク質のみならずオルガネラの品質管理をも担っている可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
申請者はこれまでに卵母細胞に特異的に発現する遺伝子Oog1の解析を行ってきたが、この遺伝子のプロモーター領域の解析により、このプロモーターが卵母細胞の減数分裂期に機能することを明らかにした。受精後の胚性ゲノムの活性化に関わる母性因子の機能解析には卵母細胞に蓄えられるこれらの母性因子を受精前に除去する必要がある。そこで、今後の研究では母性由来のクロマチンリモデリング因子をターゲットとするsiRNAをOog1プロモーターの制御下で発現させ、卵母細胞の時期にこれらの因子の機能を抑制する遺伝子組み換えマウスを作製する。これらの遺伝子組み換えマウスにおいて、受精後の発生がどのように影響を受けるかを解析し、ターゲットとなる母性由来のクロマチンリモデリング因子の機能について検討する。また、タンパク質分解に関わるプロテアソーム系およびリソソーム系の阻害によって発現の影響を受ける遺伝子群についてさらなる解析を行い、胚性ゲノムの活性化に関わる因子のネットワークの構築を進める。
|