街上毒狂犬病ウイルス(1088株)をウサギに接種し、狂犬病発症後鞘内免疫によって治療する実験を大分大学医学部のBSL3レベル微生物封じ込め施設において行った。1回目実験では、狂犬病ウイルスをウサギの後肢筋に接種したところ、接種9~12日後に一過性の摂餌・摂水量の減少を示したが、その後4~5日以内に正常に回復し、狂犬病に特徴的な神経症状を示すウサギはなかった。2回目実験では、1088株をウサギの鼻腔内に接種したが、結果は1回目実験と同様であった。組織学的には、接種ウサギの脳に軽度の囲管性細胞浸潤が見られたが、ウイルス抗原あるいは脳炎病変は認められなかった。また、これらのウサギでは末梢血および脳脊髄液の中和抗体価が顕著に上昇していた。以上の結果から、街上毒接種ウサギでは接種ウイルスが接種局所から脳へ上行する期間が長く、その間に免疫が成立し、ウイルスが排除されてしまうと結論された。 前年度までに行った固定毒狂犬病ウイルス接種実験と本年度の街上毒接種ウサギの心筋病変を検索したところ、狂犬病ウイルス接種によって重篤な脳病変を表したウサギでは心筋壊死が認められ、脳と心筋病変の程度は比例すること、心筋病変の発生は麻酔薬の投与回数あるいは投与量と無関係であること、カテコールアミン過分泌に特徴的な心筋過収縮帯壊死contraction band necrosisを伴うことが分かった。以上の所見から、狂犬病発症ウサギに認められた心筋壊死は神経原性心筋症であると結論された。狂犬病によって死亡した人では心筋壊死の発生することが報告されてきているが、その発生メカニズムとして神経原性心筋症を考慮すべきであり、心筋壊死は狂犬病脳炎の併発症である事が分かった。
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