研究課題
リンパ腫は犬において最も発生頻度の高い造血器腫瘍であり、抗がん剤に対する感受性が良好であることから、化学療法を行う機会が多い。本研究は、微小残存病変(MRD)モニタリングシステムによって化学療法の効果を評価することにより、現行化学療法の改良および新規治療法の開発を行うことを目的とする。抗がん剤の有効性比較:多剤併用化学療法(UW-25)によって治療を行った犬のリンパ腫症例において、UW-25で使用する抗がん剤であるビンクリスチン(VCR)、シクロフォスファミド(CPA)、およびドキソルビシン(DOX)め投与前後のMRDレベルを比較し、各抗がん剤の腫瘍細胞減少効果を比較した。その結果、現行の用量では、CPAの抗腫瘍効果はVCRおよびDOXのそれよりも有意に低く、そのことはとくに大型犬における予後の悪化と関連することが示された。DOXはプロトコール全体にわたって比較的安定した抗腫瘍効果を示したが、VCRは後半においてその効果が減弱していた。これらの結果から、現時点における主要な標準プロトコールの一つであるUW-25の改良法を提示することができた。MRDレベルの変化に基づいた再発予測:犬のリンパ腫症例において、化学療法後の完全寛解期間中に定期的にMRDレベルをモニターした結果、90%以上の症例において臨床的な再発の前からMRDレベルが上昇することが示された。また、そのMRD上昇から臨床的再発までの期間の中央値は42日であった。この結果から、MRDモニタリングは再発予測に有用であることが明らかとなり、MRDレベルに基づいて化学療法を再開することによって再発させない化学療法の指針が示された。本年度におけるMRDモニタリングに関する研究成果により、犬のリンパ腫に対する化学療法の改良法を明確に提示することができたものと考えている。
2: おおむね順調に進展している
犬のリンパ腫において、微小残存病変モニタリングシステムを薬剤の有効性評価および再発予測に利用することができ、当初の計画に沿った成果が得られている。
犬においては、類似した消化器症状を呈する炎症性腸疾患と消化器型リンパ腫の鑑別が重要な課題となっている。当初の計画調書でも触れているが、消化器型リンパ腫症例における微小残存病変モニタリングシステムの有用性を検討しており、その分野での臨床的有用性を発展させていきたい。今年度で得られた成果を実際の臨床例での治療にフィードバックしていくことが重要であるが、その際には適切な症例を確保してくことが課題となる。本学動物医療センターだけではなく、協力動物病院との連携により症例を確保する努力が必要と考え、これら病院の獣医師との連携ミーティングを行う方針である。
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