研究課題
犬のリンパ腫は発生頻度が高く、抗がん剤に対する感受性が良好であることから、化学療法を行う機会が多い。化学療法の有効性に関しては寛解率や寛解/生存期間という臨床的パラメータのみによって評価されてきた。本研究では、高感度・高精度に腫瘍細胞数を定量する微小残存病変(MRD)モニタリングシステムによって化学療法の腫瘍細減少効果を評価し、新たなリンパ腫治療治療戦略を明らかにすることとした。化学療法プロトコール早期におけるMRDレベルによる予後予測:高悪性度B細胞リンパ腫に罹患した犬の症例にCHOP療法(改変UW-25プロトコール)を行い、免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子由来塩基配列を基にしたプライマーとプローブを用いたリアルタイムPCR法によって末梢血液中のMRDレベルを測定し、その予後に対する影響を解析した。治療11週目に解析可能であった31頭におけるMRDレベルを測定したところ、17頭はMRD陽性であったが、他の 14頭はMRD陰性(<10 cells/100,000 PBMC)であった。MRD陰性群における無進行生存期間(中央値 337日)はMRD陽性群におけるもの(中央値 196日)より有意に長いことが示された。多変量解析においても、WHO臨床サブステージの他に今回得られた治療11週目におけるMRDレベルが独立した予後因子であることが明らかとなった。MRDレベルに基づいた早期介入化学療法の有効性:UW-25プロトコールによって完全寛解に達した高悪性度B細胞リンパ腫の犬の3例において、臨床的再発前ではあるがMRDレベルの上昇が認められた時点から早期介入化学療法を実施した。その結果、いずれの症例においてもMRDレベルが低下し、臨床的再発を回避することができた。
2: おおむね順調に進展している
犬のリンパ腫においては、多中心型リンパ腫の症例が最も多く、消化器型のリンパ腫はその次に多い。本研究では、多中心型リンパ腫と消化器型リンパ腫の両方を対象として研究計画を立てて実施してきた。これまで、多中心型リンパ腫においてMRDモニタリングシステムの抗がん剤有効性比較、予後指標、および早期再発予測に関する臨床的有用性を明らかにすることができ、おおむね順調に研究が進んでいる。しかし、消化器型リンパ腫に関しては治療前から末梢血液中の腫瘍細胞数が少ない症例が多いことから、その研究がやや遅れている。平成25年度には消化器型リンパ腫症例に関して重点的に研究を進めることとしたい。
MRDモニタリングシステムは腫瘍性疾患の化学療法に関する改良および新規開発にきわめて有用であることが明らかとなってきた。今後は、大学での研究ベースだけではなく、民間の検査ラボでもMRD測定ができるようになれば、その臨床的なインパクトが増すものと考えられる。そのために、MRD測定システムを現在のものよりも簡便なものにするための工夫を行うとともに、民間の検査ラボとの協力体制を築いていきたい。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件)
The Veterinary Journal
巻: 195 ページ: 319-324
10.1016/j.tvjl.2012.07.013
Journal of Veterinary Medical Science
巻: 75 ページ: 印刷中
0.1292/jvms.12-0448
Leukemia and Lymphoma
巻: 54 ページ: 印刷中
10.3109/10428194.2012.751529
10.1292/jvms.12-0168
10.1292/jvms.12-0351