リンは肥料の三大要素の一つであり、その原料であるリン鉱石は今世紀中にも枯渇する可能性が懸念されている。このため、作物の生産力を減少させずにリンの施肥量を削減する方策が強く求められている。そもそも、土壌に施肥したリンの大部分は土壌中のAlやFeと結合して難溶態リンとなるため、 作物のリン肥料の利用効率は非常に低い。もし土壌を介さずにリンを作物に直接供給できれば、リンの施肥量を大幅に削減できるかもしれない。 そこで本研究では、作物の種子や苗に高濃度のリン酸溶液を吸収させる処理で、土壌へのリン施肥量が削減可能かどうかを検証した。 リン富化種子とリン肥料の土壌への局所施肥の組み合わせ効果を、コムギ(品種:農林61号)を用いて検証した。リン富化種子ならびに局所施肥はそれぞれ単独で植物の乾物生産力を同程度向上させた。ただし、その効果が発現する時期には違いがあり、局所施肥の効果は早期であるのに対してリン富化種子の効果は遅かった。しかし、両処理を組み合わせてもそれぞれの単独効果を凌駕するような相加作用を検出できなかった。その原因として、両処理効果の機構がともに根長促進することにあるためではないかと推察した。 サツマイモ苗に高濃度リン溶液を与えてリン富化苗の作成を試みた。サツマイモ苗を土耕栽培した結果、リン施肥レベルにほとんど反応せず、リン富化苗の効果は確認できなかった。同時に、屋外の簡易オープントップチャンバー内でCO2濃度上昇に対する応答を調査したところ、高CO2がサツマイモ収量を2倍程度も向上させる結果が得られた。一方、コムギではリン処理の有無に関わらずCO2濃度上昇に伴う生長量・収量の変化を確認できなかった。
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