研究課題
本研究の目的は、生物界に広く分布する生理活性物質であるグルタチオンを植物の根に部位特異的に与えることによって植物体の地上部に蓄積するカドミウムの量が低減する現象の分子メカニズムを明らかにすることである。平成24年度は、研究の初年度に得られた研究成果を踏まえてそれぞれの研究テーマを推進していった。グルタチオンを植物の根に部位特異的に与えた場合に、植物体の地上部に蓄積するカドミウムの量が減少する現象の要因のひとつが植物根からのカドミウムの排出がグルタチオンによって活性化されていることであることが明らかになった。また、根におけるグルタチオン処理を行った植物根におけるグルタチオンやファイトケラチン含量を測定したところ、その存在量は対照区の植物根のそれぞれの物質含量と比較して有意な差はみられなかった。この実験結果は、根に与えたグルタチオンはファイトケラチン類の合成に利用されるよりも、根タンパク質の活性調節などに利用されている可能性が高いことを示唆している。根におけるグルタチオンの合成能を強化した植物を創製する研究テーマでは、グルタチオン合成に関与する遺伝子を根で高発現する組換え体植物(アラビドプシス)を得ることができた。ポジトロン放出核種画像化システム(PETIS)を用いて、非侵襲な状態でアブラナ体内のカドミウムの動態を可視化し、根にグルタチオン処理した植物と対照区の植物における画像データを比較した。その結果、植物体の地上部の基部が植物体の地上部へのカドミウムの移行のカギとなる部位であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
根に与えたグルタチオンが植物体の地上部へのカドミウムの移行と蓄積を抑制する現象の要因の一つがグルタチオンによる植物根からのカドミウムの排出の活性化であることを明らかにすることができた。また、ポジトロンイメージング実験の結果によって、この現象の分子メカニズムを解明していく上での重要な検討課題を見出すことができた。また、根におけるグルタチオン合成能を強化した遺伝子組換体植物も作成することができ、平成25年度にはその植物の機能評価を行う段階に到達している。さらに、マイクアレイ実験に関しても現在詳細なデータ解析を行っているところであり、このデータ解析の結果によって根へのグルタチオン処理に応答して、発現量が変化する遺伝子を同定することができると考えている。以上の観点より、本研究はおおむね順調に推進することができているといえる。
平成24年度に行った実験結果によって得られた研究シーズ元に、平成25年度も実験を進めていき、根に与えたグルタチオンによる植物体の地上部へのカドミウムの移行と蓄積を抑制する現象の分子メカニズムを明らかにしていきたいと考えている。また、本年度は本研究課題の実施最終年度であることから、得られた研究成果を外部に向けて積極的に発信していくことにも注力していきたいと考えている。
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J. Exp. Bot
巻: 64 ページ: 1073-1081
10.1093/jxb/ers388
http://www.akita-pu.ac.jp/stic/souran/scholar/detail.php?id=41