研究課題/領域番号 |
23380197
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮崎 健太郎 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究グループ長 (60344123)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 遺伝子発現 / 宿主 / 異宿主発現 / レポーターアッセイ |
研究概要 |
本研究では、多様な遺伝子を均等に発現する大腸菌宿主の創成を目的とする。 とくに平成24年度は、多様な遺伝子のモデルとして、AUG、GUG、UUGの三種異なる開始コドンをもつ緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を合成し、発現効率検証用のレポーター遺伝子として用いた。これとは別に、大腸菌とは異なる生物種のコドン特性に合わせたGFPを遺伝子合成により数種類合成した。これらを実際に大腸菌に導入した結果、その幾つかについては予想通り、発現レベルの低いことを確認した。さらに、発現低下の見られたGFPを進化工学的に高発現型に変異させることにも成功した。詳細な解析の結果、進化の前では開始コドン周辺に二次構造を形成するために翻訳効率の低下していたものが、変異の導入により二次構造が崩壊し、翻訳効率が大幅に向上することを見出した。上記のような多様な変異GFPを用いて変異宿主のスクリーニングを行うこととした。 宿主改変の手段の一つとしてランダムなゲノム変異を行った。本目的のために、大腸菌ゲノムにコードされる修復系の遺伝子をターゲットとして、これらの遺伝子をコンディショナルにサイレンシングさせる方法をとった。より具体的には、mutS遺伝子に対してアンチセンスRNAを設計した。本アンチセンスRNAはIPTGの誘導により発現し、発現状態の時の宿主のミスマッチ修復能が低下することで、ゲノム中にランダムな変異が誘起される。IPTGの濃度を様々に振り変異率の異なるライブラリーを作成し、IPTGを完全に除去することで安定な変異株ライブラリーとした。 当該宿主ライブラリーに対して各種GFP発現ベクターを導入し、蛍光強度を元にスクリーニングしたが、明瞭に高発現する宿主は見出すことができなかった。原因としては発現向上のレベルが微弱であったことが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GFPを主体として様々なレポーター遺伝子を構築し、翻訳過程の素過程を詳細に解析できる系を整えつつある。実際に、開始コドン選択に加えて、開始コドンの近辺の二次構造が一塩基置換で大きく変わる変異体は、低発現型と高発現型とでは20倍以上の蛍光強度の違いを示した。 一方、宿主の翻訳特性を多様化する手段としては、まず、翻訳開始因子の欠損株の創成を完了し、変異タンパク質のスクリーニング系を確立した。翻訳開始因子の遺伝子サイズが小さいため、既存のランダム変異法(Error-prone PCRやDNAシャッフリング)に工夫が必要であり、現在その最適化条件の検討を行なっているところである。 ターゲットを定めた方法以外にも、ゲノム中にランダムな変異を導入し、有用な形質を示す変異株をスクリーニングした後に変異点を決定する方法もとっている。この方法では、変異株の分離後にゲノム解析が必要となってくることから躊躇する面もあったが、次世代シーケンサーの発展と外注分析などの低価格化なども実現していることから、本格的に開始した。今回整備したレポーター遺伝子を用いたスクリーニングでは寒天培地上で明瞭な形質を示す変異株の同定が困難であった。本課題については、蛍光セルソーターなどの使用によりある程度解決できることが見込まれる。 このように、レポーター遺伝子の開発、宿主開発ともに概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノムのランダム変異ライブラリーについてはより高感度のスクリーニング系を適用し、変異株の選択を続ける。また、ライブラリー構築条件を種々検討し、変異率の異なる様々なライブラリーを数系統構築する。レポーター遺伝子としてはすでに開発したGFPを主体とした遺伝子も用いるが、ゲノム中にコードされた内在性の遺伝子(beta-galactosidaseなど)も活用し、ハイスループットに形質の変化を追跡できる系を整える。 上記方針に従って翻訳特性の異なる大腸菌変異株を取得できたら、メタゲノムより分離済みの種々の遺伝子を実際に導入し、発現スペクトルの拡張の有無などを詳細に検討する。
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