研究課題/領域番号 |
23380202
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 善晴 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70203263)
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キーワード | メチルグリオキサール / TORC2 / シグナル伝達 / 酵母 / 脂肪細胞 / Pkc1 / Plc1 |
研究概要 |
TORC2(target of rapamycin complex 2)はアクチン細胞骨格の制御等にかかわるタンパク質リン酸化酵素複合体である。TORC2の活性化に関して、哺乳類ではインスリンやインスリン様成長因子により活性化されることが知られているが、その活性化の詳細な分子機構についてはよく分かっていない。一方、酵母のTORC2については、活性化因子についてすらよく分かっていない。私は、解糖系から派生する代謝物であるメチルグリオキサール(MG)が、ホスホリパーゼC(Plc1)依存的に酵母TORC2を活性化することを発見した。本研究では、そのメカニズムの解明を通して、代謝物や代謝中間体によるシグナル伝達機構「メタボリックシグナリング」という概念の確立を目指している。 TORキナーゼは、AGKキナーゼと呼ばれるプロテインキナーゼを基質とすることが知られており、哺乳類のTORC2はAkt、SGK、PKCαを、酵母のTORC2はYpk1/2をリン酸化することが知られている。酵母Pkc1は酵母の唯一のプロテインキナーゼCであり、AGKキナーゼファミリーに属するが、TORC2によりリン酸化されるかどうかについては明らかになっていない。そこで本年度は、酵母TORC2がPkc1をリン酸化するかどうかについて、酵母から調製したTORC2を用いたin vitroキナーゼアッセイを行った。その結果、Pkc1はTORC2によりリン酸化された。また、Pkc1の推定リン酸化部位をアラニンに置換した変異体ではリン酸化は起こらなかった。さらに、plc1Δ株から調製したTORC2を用いたin vitroキナーゼアッセイでもPkc1のリン酸化が起こったことから、Plc1はTORC2のプロテインキナーゼ活性そのものには必要ではないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵母のTORC2の活性化機構を明らかにする上で、Pkc1がTORC2の基質になるかどうかを明らかにすることは重要である。本年度はこれを明らかにすることを当初の研究目標として掲げ、当初の予定通りの研究を行い、ポジティブな結果を得ることができた。さらに、Plc1自身はTORC2のキナーゼ活性には必要ではないことを示すことができたので、細胞内におけるTORC2のMGによる活性化のメカニズムに関して、Plc1は酵素活性とは異なる作用点をもつことを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通りに、今後は培養細胞を用いる実験系で、MGがmTORC2の活性化因子としても機能しているかどうかを明らかにしていく。さらに、Plc1がどのようにしてTORC2の機能に影響をあたえているのかについて、酵母を用いる細胞生物学的な手法により解析を進めて行く予定である。
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