研究課題/領域番号 |
23380202
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 善晴 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70203263)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | メチルグリオキサール / TORC2 / Akt / 脂肪細胞 / インスリンシグナル伝達 / IRS-1 |
研究概要 |
昨年度までの解析から、解糖系代謝物であるメチルグリオキサール(MG)が、酵母においてTORC2 活性化のシグナルイニシエーターとして機能していたことから、動物細胞においても酵母と同様にMGがmTORC2を活性化することが期待された。そこで平成24年度では、マウス脂肪細胞3T3-L1、ならびに筋芽細胞C2C12細胞を用い、MG刺激により哺乳類の細胞内でもmTORC2の活性化が起こるかどうかを、Aktのリン酸化を指標として検証した。 AktにはmTORC2によりリン酸化を受ける2つリン酸化部位、すわなちThr450とSer473が存在する。そこで、それぞれの特異的リン酸化抗体を用い、MGによるリン酸化状態を検討した。その結果、MG処理によりAktのSer473のリン酸化が認められた。しかしながら、Thr450のリン酸化は起こらなかった。次に、MG処理によるAkt Ser473のリン酸化は、インスリン受容体を介したインスリンシグナル伝達経路の活性化によるものかどうかを検討するため、インスリン受容体のチロシンキナーゼ活性をIRS-1のチロシン残基のリン酸化を指標に検討した。その結果、IRS-1のチロシンリン酸化は起こらなかった。これらのことから、MGはインスリン受容体を介したmTORC2の活性化ではなく、新奇な経路でmTORC2の活性化を引き起こしている可能性が示唆された。 一方、酵母TORC2の機能制御において、Plc1が重要な役割を果たすことをこれまでの解析から明らかにしてきたが、昨年度の解析から、Plc1はTORC2のプロテインキナーゼ活性そのものには影響しないことを明らかにできた。そこで本年度は、TORC2の細胞内局在性に及ぼすPlc1の役割について検討した。その結果、Plc1欠損株ではTORC2の細胞膜直下でのドット状の局在性が失われることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的の一つは、メチルグリオキサールによるTORC2の活性化が、生物種を越えて普遍的な現象であるかどうかを明らかにすることである。平成23年度では、まず酵母を用いた解析により、MGがTORC2シグナルの活性化イニシエーターとして機能していることを明らかにすることができた。そこで平成24年度では、哺乳類の細胞においても同様の現象が観察されるかどうかを最大の検討項目とした。解析の結果、MGはマウス脂肪細胞においてmTORC2を活性化することを明らかにできた。さらに、当初の予定に入れていなかった筋芽細胞についても検討を行い、筋芽細胞においてもMGはmTORC2を活性化することを明らかにすることができた。筋芽細胞についても検討を加えた理由は、MGがTORC2を活性化する生理的意義、あるいは生理的影響を明らかにすることも本研究の目的として掲げているが、MGは糖尿病との関連が古くから指摘されていることから、インスリン受容体を持ち、血糖値維持にかかわるグルコースの取り込みにもかかわる筋肉細胞におけるMGの作用を知ることは、糖尿病病態との関連性を理解する上でも重要であるとの判断からである。さらに今回、来年度の検討項目であったMGによるインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性への影響についても検討を加え、MGはインスリン受容体の活性化を介してmTORC2を活性化しているわけではないという重要な知見を得ることができた。 一方、酵母を用いた解析から、TORC2シグナル伝達系においてPlc1が重要であることを明らかにしていた。昨年度の解析から、Plc1は酵母TORC2の酵素活性そのものには影響を与えないことを明らかにできていたが、細胞内局在性についての検討は出来ていなかった。今年度、それを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの解析から、MGがTORC2の活性化のイニシエーターとして機能していることを、酵母と動物細胞とを用いた解析から明らかにすることができた。また、酵母TORC2の機能制御において、Plc1がTORC2の細胞膜直下での局在性を制御することで関与していることも明らかにすることができた。そこで最終年度である平成25年度では、MGがTORC2を活性化することの生理的な意義、あるいは生理的重要性について、酵母と動物細胞を用いて解析を行う。 (1)酵母のTORC2シグナル伝達系は、本研究で検討しているPkc1-Mpk1 MAPキナーゼ経路の他に、Ypk1/Ypk2によるスフィンゴ脂質合成系も制御している。そこで、Mpk1 MAPキナーゼ経路や、スフィンゴ脂質合成系の欠損株のMG感受性や、Ypk1/Ypk2のリン酸化への影響などについて検討を行う。 (2)マウスの培養細胞を用いて、MGによるインスリンシグナル伝達系への影響を、インスリン抵抗性やグルコースの取り込みといった観点から検討を加える。
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