研究概要 |
本申請は分裂酵母の糖タンパク質や細胞表層糖鎖に含まれるガラクトース(Gal)残基の生合成およびGal鎖の生理的機構、さらに末端Galに付加するピルビン酸の生合成および役割について明らかにすることを目的としている。今年度はピルビン酸の付加に関与するピルビン酸転移酵素であるPvg1タンパク質の構造および機能に関して多くの知見を得ることができた。本酵素の基質特異性を調べたところ、ラクトース(Galβ1,4Glc)のGalへはピルビン酸を付加できたが、ヒト複合型糖鎖の基本骨格であるGalβ1,4GlcNAcへは転移することが出来なかった。この結果は本酵素が非還元末端のGalだけでなく、隣の糖も認識しておりGlcNAcの2位のN-アセチル基がピルビン酸転移に重要であることを示唆している。しかし、なぜPvg1がGalβ1,4GlcNAcへピルビン酸を転移できないかは不明であった。そこで本酵素の反応メカニズムや基質認識機構をさらに詳細に解析を行うため、大腸菌で生産した組換えPvg1タンパク質のX線構造解析を行った。その結果、本酵素の立体構造を明らかにすることができた。本酵素の活性中心付近の構造解析から、活性に重要なアミノ酸も特定され、実際にこれらのアミノ酸をアラニンに置換すると酵素活性が著しく低下することもわかった。基質となりうる二糖としてラクトースを配置した所、還元末端のグルコースの2位の位置に168番目のヒスチジンが極めて隣接していることが予想され、ヒスチジン残基がGalβ1,4GlcNAcへのピルビン酸の転移を阻害していることが示唆された。そこで、168番目のヒスチジン残基をアラニンに点変異させたPvg1H168A変異体を作製した。解析の結果、Pvg1H168A変異体はPvg1野生型が転移できなかったGalβ1,4GlcNAcへピルビン酸を転移できることが明らかになった。
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