研究課題
基盤研究(B)
モデル植物であるシロイヌナズナを用いて膜結合型転写因子を介した遺伝子発現制御機構の解析をおこなった。具体的には小胞体ストレス応答に関わる2つのbZIP型転写因子、bZIP60とbZIP28を主な解析対象とした。小胞体ストレスセンサーであるIRE1の遺伝子破壊株を用いたマイクロアレイ解析の結果、IRE1により制御される遺伝子群とbZIP60により制御される遺伝子群に多くの重複が見られた。その後の解析からIRE1がbZIP60 mRNAの細胞質スプライシングを介して、bZIP60の活性化に関わることを明らかとした。つまり、bZIP60はストレスが無い状態では膜貫通領域を介して小胞体膜に結合しているが、ストレス依存的にIRE1による細胞質スプライシング依存的に、膜貫通領域を決失したbZIP60が核へ移行し標的遺伝子の活性化に働くことが明らかとなった。bZIP60の標的遺伝子の1つにBiP3がある。BiP3は小胞体ストレス依存的に非常に強く誘導を受ける遺伝子であることから、小胞体ストレス応答をモニターするのに適している。BiP3プロモーターの下流にGUS遺伝子を連結したコンストラクトを導入した植物を用いて、変異体のスクリーニングを行い、ストレス処理が無い状態でも恒常的にGUS活性を示す2つの変異体を単離した。さらに、交配実験の結果からこれら2つの変異体の変異は劣性変異であり、原因遺伝子は異なることが明らかとなった。bZIP28も小胞体膜に結合して存在し、小胞体ストレス依存的にタンパク質レベルで切断を受けて、核へ移行すると考えられている。このタンパク質レベルでの切断には、ゴルジ体に局在するS1PとS2Pと呼ばれる2つのプロテアーゼが関わるとされているが、詳細は必ずしも明らかでは無い。そこで、S1P、S2Pの変異体を用いてbZIP28の切断を確認する実験系の開発を行った。
2: おおむね順調に進展している
bZIP60は通常は小胞体膜に結合し、ストレスに応じて核へ移行し、転写因子として機能すると考えられていたが、その分子機構は長年不明であった。本研究の成果により、通常は小胞体膜に存在するbZIP60のmRNAがIRE1による細胞質スプライシングを受けた結果フレームシフトが起こり、膜貫通ドメインを持たないタンパク質が翻訳されるという分子機構が明らかとなった。この成果は植物における細胞質スプライシングの初めての発見である。ほぼ同時期に米国で同様の発見がなされ、論文掲載に関しては、遅れを取ってしまったが、研究開始時には想定していなかった新しい分子機構を発見することが出来た点については、当初の計画以上に研究は進展していると言える。bZIP28の解析に関しては、GFP-bZIP28の融合タンパク質を発現するコンストラクトをS1P、S2Pの遺伝子破壊株を含むシロイヌナズナに導入し、GFP蛍光を発するトランスジェニック植物得ることが出来たが、融合タンパク質の小胞体から核への移行の観察において明瞭な結果を得ることが出来なかった。原因として蛍光顕微鏡の解像度が十分で無かったことが考えられる。以上のように、当初の計画以上に進展した部分と十分には進展しなかった部分があり、総合的に考えて、おおむね順調に進展していると考えられる。
IRE1遺伝子破壊株はツニカマイシンに対して感受性を示すが、bZIP60遺伝子破壊株は感受性を示さない。つまりIRE1はbZIP60 mRNAの細胞質スプライシング以外の機能を持つと考えられ、その機能を明らかとすることが必要である。bZIP60のIRE1による細胞質スプライシングを介した活性化に関しては、詳細な分子メカニズムを明らかにすることが必要である。スプライシングにはRNAの二次構造が必要と考えられるので、二次構造に変化を持たせる変異を導入したbZIP60を作成し、bZIP60遺伝子破壊株に変異導入bZIP60を導入し、細胞質スプライシングが起こるかどうかを確認する。また、ツニカマイシンなどの既知の小胞体ストレス応答誘導剤以外の刺激によるbZIP60の活性へのIRE1の関与について調べる。恒常的にGUS活性を示す変異体に関しては、変異体の詳しい解析を行うとともに原因遺伝子の同定を行う必要がある。bZIP28 の解析に関しては、GFP融合bZIP28とは別途、ウエスタンブロット解析での検出のためにFALGタグを付加したbZIP28を発現するトランスジェニックシロイヌナズナを作出し、SIP、S2P遺伝子の有無とbZIP28の切断の関連を調べる。
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