研究課題/領域番号 |
23390001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 美洋 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (90226019)
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キーワード | 二酸化炭素 / イミン / α-アミノ酸 / Strecker反応 / 極性転換 / シリルスタナン |
研究概要 |
二酸化炭素(CO2)は大気中に豊富に存在することから「炭素資源」として重要である.本研究課題では,CO2が本来有する二つの性質(「求電子性」及び「多重結合性」)のうち,求電子性を利用した新しい反応の開発を目的としている.本年度の研究により,イミン前駆体をフッ化セシウム存在下,シリルスタナンを用い10気圧のCO2加圧下で反応させると,ワンポット一段階の反応で一挙にα-アミノ酸誘導体が得られることを見出した.また本反応の機構を解明すべく,中間体と想定されるα-アミノスタナンの新規合成法の確立,及びα-アミノスタナンとCO2との反応を詳細に検討し,本反応が,1)フッ化セシウムが塩基として作用し,イミン前駆体からのイミンの生成,2)フッ化セシウムがシリルスタナンを活性化し,スタニルアニオンの生成,3)スタニルアニオンのイミンへの付加,4)生じたα-アミノスタナンのフッ化セシウムによる再活性化,5)活性化されたα-アミノスタナンとCO2の付加,と多段階のステップを経て進行していることを明らかにした.イミンからのα-アミノ酸合成法としては,イミンへのシアン化物イオンの求核付加によるストレッカー反応が有名であるが,本反応では本来求電子性であるイミンを「求核剤」としてCO2に付加させていることから,「極性転換型ストレッカー反応」と見なすことができる.また,CO2を炭素源として用いているばかりではなく,1)不安定なイミンを取り出す必要はなく,イミン前駆体からのαーアミノ酸の合成が可能である,2)ストレッカー反応では反応後生じるニトリル体からα-アミノ酸へと変換するために強酸条件下での加水分解が必要であるが,本反応ではCO2との反応によって直接α-アミノ酸が生成するため不要である,点など既存のストレッカー反応にはない大きな利点がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように,二酸化炭素(CO2)の求電子性を活かした新規反応の開発に成功し,CO2を炭素源として用いたα-アミノ酸のワンポット一段階合成に成功した.この反応の反応機構の解明研究により,有機合成の中間体として有用なα-アミノスタナンの新規合成法の開発にも成功した.また,この新規合成法を利用し合成した種々のα-アミノスタナン誘導体を用い,その反応機構の解明にも成功した.
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今後の研究の推進方策 |
上記のイミン前駆体からの二酸化炭素(CO2)を炭素源とした「α-アミノ酸」合成は画期的な方法であると自負しているが,その欠点として1)反応条件が比較的過酷(10気圧のCO2,100℃を必要とする)である,2)試薬として用いているシリルスタナンには,毒性が高いアルキルスズ基を含んでいる,などが挙げられる.そこで,次年度以降の検討では,シリルスタナンの代わりに様々なビスメタル試薬を用いることにより反応条件の緩和及びアルキルスズの使用回避を検討していきたいと考えている.また,本研究課題のもう一つの研究目的の柱である「C-H結合の活性化を経由したカルボキシル化反応」の検討も行っていきたい.
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