研究概要 |
芳香族アルデヒドのBaeyer-Villiger酸化反応におけるパラ位置換基の電子的効果:パラ位置換基の電子的効果については、二種類のベンズアルデヒドの競争反応を実施して相対反応速度を求め、p-Me, p-MeO, p-F, p-Cl, p-Br, p-CF3基の電子的効果をHammettの置換基定数との相関関係を解析して調べた。また、得られた反応定数値を古典的Baeyer-Villiger酸化反応と比較し、反応の律速段階についての知見を得た。即ち、本反応の律速段階はアリール基の1,2-転位であることが強く示唆された。 本Baeyer-Villiger酸化が立体保持で進行することを証明:光学活性な2級アルデヒドを合成し、ジフルオロブロマンを用いたBaeyer-Villiger酸化を実施した。得られたギ酸エステルを炭酸塩と処理してアルコールに変換し、その絶対配置と光学純度を決定した。その結果、我々のBaeyer-Villiger酸化が立体保持で進行することが明らかとなった。 分子軌道計算:分子軌道計算(DFT法及びMP2法)を実施して、反応機構の検証を行った。アセトアルデヒドのBaeyer-Villiger酸化におけるアルコキシブロマン中間体の構造計算を行った後、メチル基の転位と水素の転位を比較した。その結果、メチル基の転位が圧倒的に有利となることが判明した。この結果は、カルボン酸の生成が水素の1,2-転位を経由するルートで進行するのではなく、β脱離を経て進行していることを強く示唆している。これはアルデヒドの古典的Baeyer-Villiger酸化において、未だに残された未解決の課題(水素の1,2-転位かβ脱離)に対して、有力な考え方を提供するものである。
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