研究課題/領域番号 |
23390008
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
竹内 英夫 東北大学, 大学院・薬学研究科, 教授 (30111454)
|
研究分担者 |
三浦 隆史 東北大学, 大学院・薬学研究科, 准教授 (30222318)
平松 弘嗣 東北大学, 大学院・薬学研究科, 助教 (90419995)
|
キーワード | タンパク質 / 構造 / 機能 / カチオン-π相互作用 / 分光法 |
研究概要 |
カチオン-π相互作用はタンパク質の構造や機能を制御する重要な一因子として注目を浴びつつある。本研究では、各種分光法を駆使することにより、芳香族アミノ酸残基が関与するカチオン-π相互作用について、1)相互作用の存在を検証するためのスペクトルマーカーの探索・発見、2)相互作用に起因するタンパク質構造変化の追跡法の開発、ならびに、3)これら新規マーカー、追跡法のタンパク質構造解析への応用を行い、カチオン-π相互作用がタンパク質の構造形成と機能発現において果たす役割を解析するための分光学的基盤を構築することを目的としている。 23年度は、HIV-1ウイルスのVprタンパク質のC末端側ヘリックス部分を含む29アミノ酸残基からなるペプチドVpr52-80(DTWTGVEALIRILQQLLFIHFRIGCRHSR)とそれよりやや短いVpr52-73、並びにそれらの変異体を用いて、His-Trp間のカチオン-π相互作用を吸収、蛍光、円偏光二色性で検出するための方法を検討した。その結果、酸性条件下でHisが正電荷を獲得すると、Trpとの間にカチオン-π相互作用が生じ、その結果、Trpの紫外吸収に特有の変化をもたらし、Trpの蛍光を有意に消光させるが、円偏光二色性には変化をもたらさないことが見出された。また、これらのスペクトルの温度依存性を詳細に検討したところ、カチオン-π相互作用は、Vprペプチドのヘリックス形成には影響を与えないが、ヘリックス二量体構造を安定化することが明らかとなった。HisをLysに置換した変異体ではカチオン-π相互作用は観測されず、カチオンとπ電子系の立体的な配置がカチオン-π相互作用の生起に重要であることも確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質中におけるカチオン-π相互作用を研究するためのモデルとしてVpr52-80、Vpr52-73などのペプチドが有用であることが確認され、また、分光学的に検出する方法についての理解も大幅に進展し、研究目的の1)および2)のかなりの部分を達成することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
カチオン-π相互作用によるタンパク質の構造安定化については、熱安定性の実験から有益な知見が得られることを確認できたが、構造変化の動的過程については未だ不明な点が多い。今後は、ストップトフロー法などを活用して動的構造変化を追跡し、カチオン-π相互作用によるタンパク質の構造・機能制御メカニズムを解明する方法を探求する。また、量子化学計算・分子動力学計算により、カチオン-π相互作用に伴うタンパク質構造変化の理論的検討も行う。さらに、カチオン-π相互作用が関与すると考えられるタンパク質の一例として、糖結合タンパク質であるガレクチン-1の構造・機能を詳細に調べ、研究目的3)の達成を目指す。
|