研究課題
本研究では、腫瘍へのホウ素送達にドラッグデリバリーシステムを利用する。既に本申請者が開発した世界初のホウ素脂質とそのナノカプセル化に成功した技術を基軸に、低侵襲型がん治療を可能とする根治を目指したホウ素送達システムの確立を目標とする。24年度は以下の課題について検討した。①ホウ素高集積化リポソームの開発:申請者がリン脂質の分子構造を基に、世界で初めて開発したホウ素二分子膜脂質DSBLとホウ素薬剤内封よるホウ素高集積化リポソームの開発を行った。具体的には、50mg/kg投与可能なリポソームを調製し、大腸がん移植マウスを用いて、生体内ホウ素分布を調べた結果、腫瘍内ホウ素濃度140 ppm以上に達した。投与量を減らしたところ、15mg/kgでも、効果的なBNCTに必要な腫瘍内ホウ素濃度30 ppm以上集積させることに成功した。さらに、投与36時間後BNCTを行ったところ、照射2週間でマウスの皮下腫瘍を消失させることに成功した。②コレステロール骨格を有するホウ素脂質の開発:ホウ素リポソームとして、リポソームの構成成分であるコレステロールに着目し、これにホウ素を導入したホウ素脂質の開発を行った。さらに、ホウ素コレステロールからホウ素リポソームを調製し、このホウ素リポソームの生体内での分布機構を解明するために、ホウ素リポソームの細胞内蛍光標識化を可能とするホウ素コレステロールを開発した。③コレステロール骨格を有するホウ素リポソームの抗腫瘍活性:ホウ素コレステロールから調製したリポソームを用いて、大腸がん移植マウスを用いて、腫瘍を含む各臓器のホウ素濃度分布を時間変化とともに明らかにした。その結果、ホウ素脂質と場合に比べて非常に高いホウ素デリバリー効率を達成した。
2: おおむね順調に進展している
リポソームを用いたホウ素デリバリーシステムの実用化には、ホウ素のリポソームへの高集積化が必須である。ホウ素薬剤であるBSH内封リポソームでは、浸透圧の関係から、最終ホウ素濃度3000 ppmのリポソーム溶液を調製するのが限度であった。リポソームへのホウ素の集積化は、調製したリポソームのホウ素とリン脂質の濃度比(B/P比)で見積もることができる。BSH内封リポソームの場合、B/P比はおよそ1.2であった。すなわち、成人体重60 kgの患者に対し、40グラム以上のリポソームを投与必要があり、現行のリポソーム製剤の投与量(1 グラム/人)からは、大きくかけ離れている。24年度で開発に成功したリポソーム製剤は、ホウ素薬剤内封とホウ素脂質を組み合わせることにより、ホウ素量で15mg/kg投与でも、BNCTの高腫瘍効果が得られると期待される腫瘍内ホウ素濃度30ppm以上を達成した。また、調製したリポソームのホウ素とリン脂質の濃度比(B/P比)は、2.8と飛躍的に高めることができ、リポソームの最終ホウ素濃度は5000 ppmに達した。このことから、成人体重60 kgの患者に対し、5.4グラム程度のリポソームを投与することで、十分効果が得られるレベルにまで改良することに成功している。また、MRI造影剤を内封することで、生体内でのリポソームの安定性を観察する手法を確立し、またリアルタイムでホウ素リポソーム製剤の追跡にも成功した。25年度では、さらにこのB/P比を上げるために、内封ホウ素薬剤を新たに開発する。
①ホウ素高集積化リポソームの開発:リポソームを用いたホウ素デリバリーシステムの実用化には、調製したリポソームのホウ素とリン脂質の濃度比(B/P比)で3以上、成人体重60 kgの患者に対し、リポソーム投与量3グラム以下が必須である。そこで、25年度は内封ホウ素薬剤の開発を行う。内封ホウ素薬剤量は浸透圧と関係しており、そのモル濃度に比例する。そこで、1分子内に多くのホウ素原子を含み、かつ毒性に低いホウ素化合物を開発する。具体的には、本申請者が既に見出しているホウ素イオンクラスター上でのクリック環化付加反応(Inorg. Chem. 2009, 48, 11896)を応用して、1分子内に48個のホウ素原子を有するホウ素化合物を開発する。そして、それを内封したホウ素リポソームのホウ素とリン脂質の濃度比(B/P比)が5以上を目標とする。②コレステロール骨格を有するホウ素リポソームの抗腫瘍活性:24年度で既に開発に成功した、ホウ素コレステロールに対して、中性子照射による大腸がん移植マウスを用いたBNCT抗腫瘍効果について検討する。中性子源には、京都大学原子炉実験所の原子炉KURを利用する。25年度の運転予定は、6月~7月と12月~2月となっている。できるだけ、6月~7月で基礎的な動物実験データを取りたい。③内封ホウ素薬剤の改良:内封ホウ素薬剤に用いているアニオン性ホウ素クラスターのカウンターカチオンは現在ナトリウムイオンを用いている。カウンターカチオンは、その溶解性に影響を与えることがよく知られていることから、このカウンターカチオンを種々検討することにより、内封効率の向上を目指す。
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