中性子捕捉療法は、1968年世界に先駆けて日本で初めて脳腫瘍の治療に臨床応用されて以来、耳下腺がん、舌がんの治療にも適応され、応用範囲の拡大が注目されている。本研究では、腫瘍へのホウ素送達にドラッグデリバリーシステムを利用する。既に本申請者が開発した世界初のホウ素脂質とそのナノカプセル化に成功した技術を基軸に、現在問題となっているがん移植マウスにおける中性子照射後のがんの再発を克服するために、DDSで盲点となっている腫瘍血管から離れたハイポキシア領域へのホウ素薬剤送達を達成させ、低侵襲型がん治療を可能とする根治を目指したホウ素送達システムの確立を目標し、25年度は以下の課題について検討した。 ①ホウ素高集積化リポソームの開発:リポソーム内封ホウ素薬剤の合成を検討するとともに、高濃度集積技術を開拓する。内封薬剤の濃度は、生体浸透圧の点から限られている。そこで、1分子あたりのホウ素原子数を高めることで、高濃度集積化を達成した。さらに、用いる水溶性ホウ素イオンクラスターのカウンターカチオンを検討することで、リポソーム膜成分を構成するリン脂質との相互作用を極力低減させ、効率の良いリポソーム調製プロセスを確立する。その結果、ホウ素濃度とリン脂質濃度比を現在の1.2から3以上となるホウ素高集積化リポソームを開発することに成功した。 ②光線力学療法とホウ素中性子捕捉療法の融合治療を可能とするホウ素製剤の開発光線力学療法(PDT)に有効なポルフィリンを用いてポルフィリン脂質の開発:合成したポルフィリン脂質を用いて、リポソーム化を検討した。さらにポルフィリン脂質およびそのリポソームのヒトがん細胞に対する細胞毒性ならびに、PDT高腫瘍活性について検討するとともに、リポソーム化による細胞内取り込みおよび殺傷効果の有用性について、明らかにした。
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