研究概要 |
以前我々は、コンドロイチン硫酸(CS)鎖中のE-unit構造(GlcA-GalNAc(4S,6S))を認識するファージ抗体が、マウスLewis肺癌細胞を強く染色し、その細胞の肺への転移がこの抗体によって、著しく阻害されることを見出していた。そこで本研究では、これらの癌の転移の分子メカニズムにおけるコンドロイチン硫酸の役割を解明し、コンドロイチン硫酸を用いた創薬の可能性を追求した。その結果、肺癌細胞の転移に関わるCS鎖の受容体として, Receptor for Advanced Glycation End-products (RAGE)を同定した(Journal of Biological Chemistry, 2012)。さらに、抗RAGE抗体で、肺癌細胞の転移が有意に阻害されることも見出した。また、コンドロイチン硫酸鎖の合成に関わるN-アセチルガラクトサミン4-硫酸-6-O-硫酸基転移酵素の遺伝子発現をノックダウンすると、肺への癌細胞の転移が抑制されることも見出した(BioMed Research International, 2013)。これらの知見は、CSの癌転移における役割の解明だけでなく、将来的な抗癌剤の開発に繋がるものと考えられる。さらに、CSが関わる癌の転移に関する総説がFEBS Journal (2013)に掲載された。 また、C型肝炎ウイルスが肝臓のヘパラン硫酸と相互作用することも見出し(Glycoconjugate Journal, 2012)、抗ウイルス薬の可能性を示唆した。 これらの研究論文を含めて、国際誌に原著論文が3報、総説2報を発表した。また、国内学会発表5回、国際学会での発表を4回行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に進展している理由としては、査読有りの学術雑誌3編に論文が受理されたこと、総説2編および学会での発表も国内5件、国際学会4件にのぼるからである。また、原著論文(Mizumoto et al., Journal of Biological Chemistry, 287 (23), 18985-18994)の癌転移のメカニズムに関する研究内容がNatureの姉妹誌の「Science-Business eXchange」(5(18); doi:10.1038/scibx.2012.465)に紹介された。 さらに、研究内容についても日本人の死因の1位を占める「がん」をターゲットとし、これまでほとんど解析されてこなかったコンドロイチン硫酸のがん転移における役割を明らかにしつつある。具体的には肺の転移に関わるコンドロイチン硫酸の受容体としてReceptor for Advanced Glycation End products (RAGE)を同定し(Mizumoto et al., Journal of Biological Chemistry, 287 (23), 18985-18994)、さらにコンドロイチン硫酸の生合成に関わるN-acetylgalactosamine 4-sulfate 6-O-sulfotransferaseのノックダウンが肺への癌転移を抑制することも発見した(Mizumoto et al., BioMed Research International, 2013, 656319)。また、コンドロイチン硫酸あるいはその抗体、抗RAGE抗体に、肺への癌細胞の転移阻害活性も見出したことから、将来的な抗癌剤の開発に繋がることも期待できるからである。
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