研究課題/領域番号 |
23390021
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
杉浦 麗子 近畿大学, 薬学部, 教授 (90294206)
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研究分担者 |
喜多 綾子 近畿大学, 薬学部, 助教 (00388498)
村岡 修 近畿大学, 薬学部, 教授 (20142599)
藤原 俊伸 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (80362804)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | MAPキナーゼ / 細胞内シグナル伝達 / ケミカルバイオロジー / 分子標的治療薬 / 分裂酵母 / ケミカルゲノミクス |
研究概要 |
本研究は、ケミカルゲノミクスの手法を用いてMAPKシグナルネットワーク制御機構の解明を行うとともに、細胞増殖や癌化に深く関わるMAPKシグナル伝達経路を標的としたケミカルゲノミクスを展開することで、抗がん薬開発に向けての知見を蓄積することを目的としている。 本年度は、ケミカルバイオロジーの手法を用いて、免疫抑制作用と抗腫瘍活性を有する多機能化合物であるFTY720(フィンゴリモド)を介する細胞内シグナル伝達経路の解析を行なった。その結果、FTY720が細胞内Ca2+濃度の上昇を誘導し、タンパク質脱リン酸化酵素カルシニューリンシグナル伝達経路の活性化、ならびにカルシニューリンの標的転写因子であるPrz1の活性化を誘導する機構を明らかにした。また、FTY720は細胞膜表面に存在するYam8/Cch1チャネルを介してCa2+濃度の上昇を誘導することを明らかにした。さらに、FTY720はROS産生を誘導し、p38 MAPKシグナル伝達経路と転写因子Atf1を活性化するということも明らかにした。一方、ケミカルゲノミクスの手法を用いて、蛋白質脱リン酸化酵素カルシニューリン、あるいはカルシウムチャネルYam8/Cch1のノックアウト細胞、さらにp38 MAPK経路のノックアウト細胞がFTY720に対する超感受性を示すことから、これらのシグナル伝達経路とFTY720感受性の機能的関連を明らかにした。一方、杉浦らが確立したゲノム薬理学的アプローチを用いたMAPKシグナル阻害薬の探索手法により、単離した化合物の一種が、複数のがん細胞に対する抗腫瘍活性を示すことを見出した。化合物の全合成に加えて各種の類縁誘導体の合成に成功し、より活性の強い類縁体の合成に成功した。一方、MAPKの標的因子として同定したNrd1はMAPKによるリン酸化依存的にミオシンmRNAと結合することにより細胞質分裂に関与すること、ストレス顆粒の構成因子としてストレス顆粒の形成を制御すること、ストレス耐性に関わることを明らかにしてきた。これらの結果に基づき、RNA結合蛋白質Nrd1のNMR法による構造解析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
独自の手法で単離した新規化合物の一種が、vitroにおける有望な抗腫瘍活性を示すことに加え、担がんマウスにおいても腫瘍の増殖を阻害することが明らかになっている。また、多機能化合物であるFTY720の免疫抑制作用や抗腫瘍活性の分子基盤として、従来明らかにされていなかったCa2+/calcineurinシグナルとp38 MAPKの関わりを明らかにしたことは極めて意義がある。
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今後の研究の推進方策 |
・ケミカルゲノミクスの手法を用いてFTY720や同定した化合物の感受性、抵抗性に影響を与える遺伝子群を網羅的に同定する。既にゲノム全体の80%程度に関して完了している。 ・同定した化合物の分子標的経路を明らかにする。既にBiotin標識を行なった化合物を同定しているため、Pull-downとMSを組み合わせることにより、化合物の標的候補を探索する。 ・化合物の標的経路や標的分子のノックダウンあるいはノックアウト生物を作製することにより、化合物の作用機序を明確にする。
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