研究概要 |
生理活性天然物や小分子有機化合物などの作用標的に迫る Forward Chemical Genetics において、標的タンパク質の同定は重要な課題である。本研究では、標的同定のために汎用されるプルダウンアッセイ法効率化に有機化学的側面から取り組み、応用展開をはかることを目的とした。これまでに、標的天然物として選択したアスパーギライド A-C の3種について、両エナンチオマーの効率的合成ルートの開発に成功するとともに、それらの分子変換法を確立することができ、多様なプローブ分子の創製が可能になった。この知見を基にケミカルバイオロジー研究を展開し、当該年度において以下の成果を挙げた。 ①ヒト大腸ガン細胞株(HCT116)に対し細胞傷害性を示す(-)-アスパーギライド C (以下、aspC)の細胞内標的分子の同定を目的に、宍戸、大高が作製したaspCのビオチン標識体などを合成し、伊藤が元のaspCと同等の細胞障害性を示すことを確認した。さらに、細胞抽出液に対するアフィニティークロマトグラフィーと吸着・溶出画分中のプロテオーム解析を行なった。その結果、Heat shock protein 90,Tumor necrosis factor type1 receptor-associated protein, 67kDa laminin receptorなどを同定し、aspCによる細胞傷害性にストレス、アポトーシスおよび細胞接着が関与していることが示唆された。 ②AspCをHCT116細胞株の培養系に添加し、細胞形態等のタイムラプス解析を行った。その結果、aspCの非添加群では細胞は相互に重なり合い層状に増殖するのに対し、aspCを添加すると細胞は相互に重なり合うことはできず単層状に増殖し、見かけ上の細胞増殖速度が低下するとともに、最終的には細胞死が誘導されることが明らかになった。これらの結果から、aspCはHCT116細胞間の接着に影響するとともに、緩和な経過でアポトーシスを誘導している可能性が考えられた。
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