研究課題
本研究は、抗がん剤に対する癌細胞の応答反応について、タンパク質発現・機能を研究するプロテオーム解析と細胞内全代謝物質を一斉分析するメタボローム解析により、抗がん剤反応性の多様性(レスポンダー・ノンレスポンダー)を予測しうるバイオマーカーを見出し、個別化投薬への展開を目的とする。1)ヒト大腸癌細胞の薬剤応答に関するメタボローム解析:ノンターゲット網羅的解析手法により、ヒト大腸癌細胞にオキサリプラチンを添加したときの細胞内代謝応答を検討した。その結果、薬剤感受性癌において代謝が大きく変動し、とくにポリアミン代謝、グルタチオン代謝、核酸代謝の亢進を見出した。これらは薬剤応答を反映するバイオマーカーとなる可能性が考えられた。2)ヒト大腸癌細胞の薬剤応答に関するプロテオーム解析:ヒト大腸癌細胞のオキサリプラチン感受性と相関するタンパク質S100A10をプロテインチップ解析により新規に発見し、且つS100A10タンパク質およびmRNA発現量は結合パートナーであるannexinA2発現量と相関することを見出した。RNAiによりannexinA2をノックダウンすることによりS100A10タンパク質量は著しく減少したことからannexinA2はS100A10の細胞内安定性に影響すると考えられた。3)ヒト膵癌細胞の薬剤応答に関するメタボローム解析:ヒト膵癌細胞Miapacap-2を用いてゲムシタビン曝露後の細胞内代謝応答を調べた。その結果、ゲムシタビンは速やかに三リン酸化体まで代謝が進み、CTP合成酵素とリボヌクレオチド還元酵素を阻害することを解明した。さらに、核酸代謝阻害に対する細胞応答として解糖系およびTCAサイクル活性の上昇を見出した。
2: おおむね順調に進展している
全体の研究期間は3か年であり、初年度の平成23年度に癌細胞を用いた基礎研究から抗がん剤応答に関連する代謝経路並びにタンパク質を見出した。さらに、ゲムシタビンの新たな作用機序を解明した。初年度にバイオマーカー候補物質に関する知見を得たことにより、2年目以降の抗がん剤耐性メカニズムの解明、臨床検体におけるバイオマーカー候補物質の分析さらには臨床成績との相関に関する研究を予定通り進めることができる。
抗がん剤5-FUやゲムシタビンに対して耐性と感受性のヒト癌細胞を用い、耐性獲得と密接に関連する細胞内代謝反応を調べる。同時に、プロテオーム解析・トランスクリプトーム解析により耐性癌に特徴的なタンパク質発現を検討する。さらに、癌患者の血液検体におけるバイオマーカー候補物質の発現量を測定し、抗がん剤治療効果との相関を解析することによって、臨床応用に向けたトランスレーショナル研究を実施する。
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