研究実績の概要 |
概日リズム(サーカディアンリズム)はほとんどの生物に認められる普遍的な生命現象である。概日リズムは一生にわたって24時間周期のリズムを刻み続けるが、最初から明瞭なリズムを刻んでいる訳ではなく、発生期を通して概日時計が形成されることが示唆されていた。しかし、発生・発達期の概日時計の性質がどのように変化するかについては、現在まで体系的な研究は少なく、概日時計の発生メカニズムは明らかにされていない。本研究では、発生過程に着目し概日時計がどのように形成されていくのかを分子レベルで検討した。 哺乳類概日時計の発生における最大の特徴は、発生過程において時計遺伝子振動が徐々に出現してくることである。我々は、ES細胞の分化誘導系を用いたin vitro モデルやマウス胎仔細胞における概日時計の発生過程において、これが「単一細胞レベル」でも認められる現象であることを明らかにし (Yagitaら,PNAS,2010; Inadaら,FEBS Lett, 2014)、さらに細胞分化に伴う概日時計の発生メカニズムについて解析を進めてきた。細胞分化の制御に関わるDNAメチル化酵素Dnmt1, 3a, 3bの欠損ES細胞などを用いた概日時計発生に関わる因子の網羅的探索により、現在484の遺伝子を候補因子として同定していた。 これらの候補遺伝子の一つであるImportin-α2 (Kpna2)の過剰発現によって、必須の時計タンパク質であるPER1およびPER2の核内移行が阻害され、細胞質への異常蓄積が生ずることで分化に伴う概日時計の発生を障害することを見いだした(Umemuraら, PNAS, 2014)。これらの結果から、細胞分化と概日時計の発生は不可分の生命現象であることが示唆された。
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